ミッドソールの読み方 — フォーム素材・プレート・ロッカーを名前で見分ける
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結論:ミッドソールは「厚さ(数値)」より「中身(素材と構造)」で乗り味が決まります。ただし中身は数値で比較できないからこそ、名前の読み方を知っておく価値があります。
前回の記事では、ドロップ・スタックハイト・重量という「数値で比較できるスペック」の読み方を解説しました。今回はその続きで、数値化しにくい構造系スペック——フォーム素材・プレート・ロッカー構造——を扱います。同じ「かかと40mm」の厚底でも、中身のフォームが違えば別の乗り物です。スペック表に並ぶ「ZoomX」「PWRRUN PB」「メタロッカー」といった名前が何を指しているのかが分かると、シューズ選びの解像度は一段上がります。
なお、この記事も価値判断はしません。**反発が強い=良い、ではありません。**どの構造が合うかは、走る目的・ペース・体によって変わります。
フォーム素材 — 商標名と化学系統は別物
結論:スペック表のフォーム名(ZoomX・PWRRUN PBなど)はメーカーの商標名で、素材の性格を決めるのはその下にある「化学系統」です。同じ厚底でもEVA系とPEBA系は別の乗り物です。
ミッドソールのフォームは、化学的にはいくつかの系統(ファミリー)に分類できます。代表的なところでは:
- EVA系:長年の標準素材。軽く、コストと成形性に優れ、多くのデイリートレーナーに使われてきました。一般に、使い込むと圧縮された状態が戻りにくくなる(へたる)性質が知られています。スーパークリティカル製法で発泡させた改良系(SC-EVA)は、従来EVAより軽さと反発を高めた素材として各社が採用しています
- TPU系:熱可塑性ポリウレタン。発泡ビーズ化したeTPUの代表例がBASFの「Infinergy」で、2013年からadidas「Boost」フォームの中身として高反発フォーム時代の扉を開けた素材です。BASFは高い反発弾性と、低温でも硬くなりにくい温度安定性を特徴として説明しています。EVA系より比重が大きい(重くなりやすい)傾向があります
- PEBA系:ポリエーテルブロックアミド。現行のレーシングフォームの代表格です。素材の代表例が素材メーカーArkemaの「Pebax」で、同社は軽さ・高いエネルギーリターン・低温でも性能が落ちにくいことを特徴として説明しています。PEBA系を柔らかく軽く発泡させたレーシングフォームは、多くのメーカーがレース・スピード練習向けと位置付けており、毎日のジョグ用とは役割を分けた設計が主流です
- TPEE系:熱可塑性ポリエステルエラストマー。adidasの現行レーシングフォーム「Lightstrike Pro」と、その頂点にあたる「Lightstrike Pro Evo」(Adios Pro 4・Adios Pro Evoシリーズに搭載)が、この系統の発泡フォームだと海外のランニングメディアで紹介されています(adidas公式は「低密度・高反発素材」と説明し、化学系統そのものは明言していません)。2026年の箱根駅伝で2年連続の着用率1位と報じられたadidas勢の主戦フォームで、日本のレースシーンで今もっとも存在感のある系統の一つです
このほかにもPU・POE・TPEなど複数の系統があります。大事なのは、「反発・耐久・温度への強さ」のバランスが系統ごとに違うということです。だから「厚さ40mm」という数値が同じでも、EVA系の40mmとPEBA系の40mmでは、跳ね返りも、へたるまでの距離も、冬の朝の硬さも変わります。
そして、系統の顔ぶれは固定ではありません——フォームの世界は今も世代交代の途中です。かつての代表格Boost(eTPU)は、現在のadidasのレースモデルでは上記のLightstrike Pro系に主役の座を譲りました。一方、TPU系には**脂肪族TPU(A-TPU)**という新世代が登場しており、PUMAが最上位レーシングフォーム「NITROFOAM ELITE」に採用した素材として、海外のランニングメディアで「TPUの反発と耐久を軽い発泡で引き出す新顔」と紹介されています。
- 出典:Arkema「Pebax Powered」公式サイト・Arkema スポーツフットウェア向け素材ページ(2026-07-07確認)
- 出典:BASF「Infinergy」公式ページ(2026-07-07確認)
- 出典:アディダス ジャパン公式プレスリリース「ADIZERO ADIOS PRO 4」発表(PR TIMES)・adidas公式ニュース「Introducing the adidas adizero adios Pro Evo 2」(Lightstrike Pro/Pro Evoミッドソールの説明・2026-07-07確認)
- 出典(二次情報):Supwell「Explaining Every Running Shoe Brand’s Foam Compounds」(Lightstrike Pro=TPEE系の紹介・2026-07-07確認)
- 出典:FASHIONSNAP「第102回箱根駅伝、最も履かれたブランドは2年連続『アディダス』」・日本経済新聞「箱根駅伝シューズ着用率、アディダスが連覇」(2026-01・2026-07-07確認)
- 出典(二次情報):Outside Run「Is A-TPU the New King of Super Shoe Foams?」・Canadian Running「What is Puma NITRO?」(PUMA NITROFOAM ELITE=A-TPUの紹介・2026-07-07確認)
では、手元のシューズのフォーム名がどの系統なのかはどう調べるか。メーカーが公式に明言している場合があります。たとえばSauconyは公式サイトのフォーム解説ページで、レーシングフォーム「PWRRUN PB」がPEBA系であることを明言しています。adidasのBoostがeTPUであることは、素材供給元のBASFが公式に説明しています。TopoのようにArkemaの「Pebax Powered」提携ブランディングを掲げるメーカーもあり、この場合は商標名自体が系統の明言になっています。
- 出典:Saucony公式 フォームテクノロジー解説(PWRRUN PB=PEBA系の明言・2026-07-07確認)
公式の明言がない場合でも、素材業界や海外のランニングメディアが系統を解説していることがあります。この記事では、そうした二次情報は出典を添えて「〜と紹介されています」の形で扱います(上のLightstrike Pro=TPEE系や、A-TPUがその例です)。ただし、シューログのデータベース——各シューズページのfoamFamilyバッジ——に載せるのは、一次ソースの明言がある系統だけです。検索や比較の土台になるデータは伝聞では埋めない、がシューログの決め事だからです。
そして、一次にも二次にも情報がないフォームは珍しくありません。シューログでは、こうした場合に推測で埋めることはせず、「系統非公表」として扱います。実際、シューログ収載モデルのうち◯件は、メーカーがフォームの化学系統を公表していません。
データで見る時の注意:
- シューログの各シューズページには、フォームの**商標名(メーカー公表名)**に加え、一次ソースが系統を明言している場合のみ化学系統(foamFamily)を出典リンク付きで表示します。明言がなければ「系統非公表」です
- 系統は世代やモデルで変わることがあります(同じ商標名でも配合が更新される)。系統表示はあくまで出典時点の情報として読んでください
- 各フォームを実験室で計測・分解した実測データは、海外サイトのRunRepeatが詳しいです。素材の柔らかさや反発の実測比較はそちらを参照してください
- 数値で比較できるスペック(重量・スタック等)はシューズ検索で絞り込めます
プレート — 「速くなる魔法」ではなく、走り方を変える構造
結論:プレートは推進力を足すパーツではなく、フォームと組み合わさって「足の使われ方」を変える構造です。カーボン=速い、と単純化しないのが読み方のコツです。
現行のレーシングシューズの多くは、ミッドソール内に湾曲したプレート(カーボンファイバー製が代表・ナイロンなど樹脂製もあります)を内蔵しています。この設計が注目される起点になったのが、Hoogkamerらによる2018年の研究です。Vaporfly型のプロトタイプシューズは、当時の他のマラソンレーシングシューズと比べてランニングの代謝コスト(エネルギー消費)を平均4%下げたと報告されました(時速14〜18kmの範囲で2.7〜4.2%)。重要なのは、この効果が「プレート単体」ではなく、軽量で反発性の高いフォームと湾曲プレートの組み合わせによるものと分析されている点です。なお、4%は実験参加者の平均値で、節約幅には個人差があります。また、エネルギー消費の改善率がそのままレースタイムの短縮率になるわけでもありません。
実際、同じ研究グループによる追試では、Vaporflyのプレートに切れ込みを入れて縦曲げ剛性(たわみにくさ)を下げても、エネルギー消費の節約効果はほとんど変わらなかったと報告されています。研究チームは、効果の源はプレートの硬さ単独ではなく、フォーム・ソール形状・湾曲プレートの相互作用にあると結論づけました。「カーボンプレートが入っているから速い」「硬いほど速い」という読み方は、研究の示す実像より単純化されすぎです。プレートはフォームの変形の仕方と足指の曲がり方を変える部品であり、効果の出方は組み合わせと走り方に依存します。
あわせて、注意点も知られてきています。カーボンプレート搭載シューズの使用者における骨ストレス障害(疲労骨折など)の症例報告が2023年に発表されており、特に履き替え初期の急な移行には慎重さが推奨されます。因果関係が確定したわけではありませんが、「報告がある」ことは知っておく価値があります。プレート搭載シューズが初めての方は、短い距離から徐々に慣らすのが無難です。
競技規則の面では、前回の記事で紹介したWorld Athleticsの規則が、スパイクのないシューズに内蔵できる硬質構造(プレート等)を1枚までと定めています(Athletic Shoe Regulations 規則8.5.1・適用範囲は公認競技会に出場する選手)。
- 出典:Hoogkamer, W. et al.「A Comparison of the Energetic Cost of Running in Marathon Racing Shoes」Sports Medicine 48(4), 2018, 1009-1019
- 出典:Healey, L.A. & Hoogkamer, W.「Longitudinal bending stiffness does not affect running economy in Nike Vaporfly Shoes」Journal of Sport and Health Science 11(3), 2022, 285-292(2026-07-07確認)
- 出典:「Bone Stress Injuries in Runners Using Carbon Fiber Plate Footwear」Sports Medicine, 2023(PubMed・2026-07-07確認)
- 出典:World Athletics「Athletic Shoe Regulations」Book C – C2.1A(2026年1月1日発効・PDF)(2026-07-07確認)
データで見る時の注意:
- プレートの有無・素材(カーボン/ナイロン等)はメーカー公表情報として比較しやすい項目です。シューズ検索ではプレートの有無・素材で絞り込めます
- 「プレートあり」の中でも形状・配置・剛性は様々で、そこは公表数値がない領域です。最後は用途(レース用か、テンポ走用か)で読むのが実用的です
ロッカー構造 — ソールの反りで「転がして」進ませる設計
結論:ロッカーはソール前後の反り上がりで重心移動を助ける構造で、厚底・プレートとセットで効く設計です。角度などの数値は各社とも非公表のため、「機能名があるか」で見分けます。
ロッカー(rocker)は、ロッキングチェアの脚のようにソールを湾曲させ、着地から蹴り出しまでの体重移動を転がすように促す設計です。ソールが厚くなるほど足首や足指で地面を掴む動きは使いにくくなるため、厚底化・プレート搭載とロッカー形状は事実上セットで発展してきました。
メーカーはこの構造に固有の機能名を付けて説明しています。実例を2つ挙げると:
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HOKA「メタロッカー」:HOKAが自社の主要テクノロジーの一つとして解説する前後の湾曲設計。公式サイトでは、ロッキングチェアのようなカーブで体重移動をスムーズにすると説明されています
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ASICS「GUIDESOLE」:弓形にカーブしたソールと二層構造のミッドソールで、走行中の足首の屈曲を減らしエネルギー消費を抑える設計。アシックスは着地時の足首まわりの負担を約20%削減する(同社公表値)などの説明を公開しています
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出典:HOKA公式 テクノロジー解説ページ(2026-07-07確認)
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出典:ASICS公式ブログ GLIDERIDE解説・アシックス コーポレートプレスリリース(2020-03-31)(2026-07-07確認)
読み方のもう一つの手がかりは、どこが反っているかです。つま先側の反り(前足部ロッカー)は蹴り出しの転がりを、かかと側の反り(ヒールロッカー)は着地から接地中盤への移行を助ける——という部位ごとの役割で説明されるのが一般的です。メーカーの機能説明を読むときは、「どの局面を助ける設計か」に注目すると、モデルどうしの性格の違いがつかみやすくなります。
もう一つ、乗り換え時の注意です。上のGUIDESOLEの説明が示すように、ロッカーは足首まわりの動きの一部をソールの転がりで肩代わりする設計です。使われる筋肉の分担が変わるため、フラットなソールからロッカーの強いモデルに履き替える場合は、ドロップの変更と同じように、距離を抑えて徐々に慣らすのが無難です。
一方で、ロッカーのカーブの角度や開始位置といった数値は、各社とも公表していないのが通例です。つまりロッカーは「数値で比較できない領域」で、比較の手がかりはメーカーが機能名を付けて説明しているかどうか、になります。シューログでも、ロッカーは公式ページに機能名の記載があるモデルのみその名称を記載し、記載がないモデルは「非公表」としています(独自に「ロッカーあり」と判定することはしません)。
データで見る時の注意:
- 機能名の記載がない=ロッカー形状がない、ではありません(名前を付けずに湾曲させているモデルもあります)。「非公表」はあくまで「メーカーが機能として説明していない」の意味です
- ロッカーの効き方はドロップ・スタックハイトとも連動します。気になるモデルは比較ビューで数値スペックと合わせて見てください
いま履いている一足の「中身」を調べておく
結論:構造系スペックを最速で自分のものにする方法も、数値と同じです——いま履いているシューズのフォーム名・プレート・ロッカーを一度調べておくことです。
第1弾の記事では、ドロップ・スタック・重量を「いま履いているシューズとの差分」で読む方法を紹介しました。構造系スペックは数値ではないので差分計算はできませんが、代わりに変化点で読めます。次の候補のシューズは、今の一足と比べて——
- フォームの系統が変わるのか(例:EVA系→PEBA系)
- プレートが初めて入るのか・素材が変わるのか
- ロッカーの機能名が付く設計になるのか
履き替えたときに感じる乗り味の違いの多くは、厚さ2mmの差よりも、この変化点から来ます。そして系統が変わる・プレートが初めて入るときこそ、この記事で触れた「徐々に慣らす」が効く場面です。
シューログのマイシューズ機能に手持ちのシューズを登録すると、各モデルのページでフォーム名・プレート・ロッカーの公表情報を確認できます。まず自分の一足の「中身」を知っておくと、スペック表の名前が意味を持ち始めます。
まとめ — 構造系スペック3要素とシューログでの扱い
数値で比較できるスペック(ドロップ・スタック・重量)と違い、構造系スペックは「名前と出典を確認する」のが読み方の基本です。
| 要素 | 読み方の要点 | シューログでの扱い |
|---|---|---|
| フォーム素材 | 商標名と化学系統は別物。系統で反発・耐久・温度の性格が変わる | 商標名は公表値として記載。化学系統(foamFamily)は一次ソース明言時のみ出典付きで表示・なければ「系統非公表」 |
| プレート | 有無・素材で読む。「カーボン=速い」と単純化しない | 有無・素材で検索可能 |
| ロッカー | 数値非公表の領域。公式の機能名で見分ける | 公式ページ記載の機能名のみ表示・独自判定はしない |
- 記載している情報はメーカー・素材メーカーの公表情報と公開研究に基づきます。系統・機能名が確認できないものは推測せず「非公表」と表示します
- フォームやプレートの実測・分解データはRunRepeat(海外サイト)が詳しく、本記事の分類と合わせて読むと理解が深まります
- 本文の作成にはAIを活用しています。情報の収集・検証プロセスは運営ポリシーをご覧ください
次のステップ:シューズ検索でプレート有無を絞り込む / 気になる2足を比較する / 数値スペックの読み方は第1弾の記事へ
公開日 2026-07-07|更新日 2026-07-07