厚底ランニングシューズで怪我は増えるのか?—論文からわかること

「厚底で怪我が増えるらしい」という話を見かけて、買うかどうかで手が止まった人に向けて書いています。ここで扱うのはランニング用の厚底シューズの話です。

ひとくちに「厚底」と言っても、論点は2つに分かれます。

  • ソールが厚いこと
  • カーボンプレートが入っていること

レース向けの厚底はたいていプレート入りですが、厚くてもプレートの無い靴のほうが市場では多数派です(シューログが扱う166足のうち、カーボンプレート入りは50足=2026年11月3日現在)。研究もこの2つを分けて調べているので、この記事も節ごとにどちらの話かを明示します。前半(衝撃・負担の場所・走り方)は主にソールの厚さ、骨の節はプレート入りの靴の報告が中心、後半(狙い・速さ)はカーボンプレートの話です。

不安の中身は、部位ごとに分かれています。

  • 膝
  • 股関節
  • ふくらはぎ
  • 足首

研究がどこまで言えていて、どこから先を言えていないのかを、部位ごとに分けて並べます。

結論

厚底ランニングシューズで怪我が増えるとも減るとも、断定できる研究はまだありません。分かっているのは、負担の量ではなく、負担のかかる場所が変わることです。骨傷害の症例報告で見えている危険は、靴そのものより「慣れていない靴で急に長い距離・速いペースを走ること」でした。新しい厚底をいきなり本番で下ろさない——これが、研究から言えるいちばん具体的な答えです。

「厚底は衝撃が大きい」は本当か

厚いソールほど着地の衝撃が大きい——研究をまとめて見ると、向きは逆でした。ただし確かさは低く、逆の報告も実在します。

まず、この「厚いほど衝撃が大きい」がどこから来ているのかを押さえます。素人の思い込みではありません。研究の側で繰り返し観測されてきたパターンで、シューズクッションのパラドックスという名前まで付いています。3種類の厚さの靴で走り比べたある論文(11名)の記述は、次の2点です。

  • 冒頭で、クッションの大きい靴や路面ほど、走行中の衝撃力が大きくなる傾向があると書いています
  • 自分たちの実験では、その現象は成立しなかったと結論しています

より広く、14本の研究をまとめて確かめたレビューがあります。ソール厚そのものを主題にした研究だけを集めたもので、結果はこうでした。

何を見たか 14研究をまとめた結果
着地の衝撃のピーク(鉛直方向) ほぼ変わらない
荷重率(衝撃の立ち上がりの速さ) 厚いソールで概ね低下
接地時間 厚いソールで増加
足首の内側への倒れ込み(外がえし) 厚いソールで増加
走りのラクさ(ランニングエコノミー) 測っていたのは14本中1本だけで、有意な効果なし

※荷重率は、着地の衝撃がどれくらい急に立ち上がるかを表す指標です。同じ大きさの衝撃でも、立ち上がりが急なほど体には厳しいとされ、怪我との関連が調べられてきました。

個別の実験でも方向は揃っています。

  • いま引いた3種類の厚さの実験では、荷重率が最も大きかったのはいちばん薄い靴でした
  • 同じメーカーでソール厚だけが違う3足を比べた別の研究(20名)でも、荷重率が高かったのはいちばん薄い靴のほうです

ただし、この話は強く言えません

覆す側にも条件が並びます。

  • レビューの著者自身が、どの項目も「エビデンスの確実性は低い〜非常に低い」と評価しています
  • 14本のうちカーボンプレート入りの厚底を扱ったのは4本だけです
  • ソール厚以外に重さも違う研究が多く(重さを揃えたのは2本のみ)、かかとと前足部の高低差も違う研究が5本あります。つまり厚さだけの効果として取り出せていません
  • 参加者は大半が男性で、エリートと初心者が著しく足りないと著者が書いています
  • 14本のうち4本は実験用の靴をアディダス社から提供されています

エビデンスの確実性とは、結果の大小ではなく、その結果をどれだけ信用してよいかについての評価です。研究の数や質がまだ足りず、今後の研究で結論がひっくり返る可能性が十分ある、という意味になります。

そして、逆向きの報告も実在します。別の14研究をまとめたレビューが反対側の代表として挙げているのは、2018年の実験です。原典に当たると、健康な男性12名(かかと接地)が、クッションの非常に厚い靴と標準的な靴で走り比べたもので、速いほうの速度(時速14.5km)での結果は、次のとおりです。

指標 時速14.5kmでの結果
着地の衝撃のピーク 厚い靴のほうで10.7%大きい
荷重率 厚い靴のほうで12.3%大きい

著者らは、厚い靴では着地時に脚のバネがかたくなり、クッションで衝撃をやわらげるという狙いがむしろ打ち消された、と説明しています。

レビューどうしで結論が割れている——ここまで書いて、はじめて誠実な要約になります。

なお同じレビューには、靴の中に入れるカーボン製の中敷きには、パフォーマンス上・代謝上の有意な利益が認められなかったという所見もあります。カーボンなら何でも効くわけではない、ということです。

出典(5本)
  • 出典:Kettner, C., Krapp, F., Stein, T.「The Effects of Shoe Sole Thickness on Running Biomechanics and Economy: A Systematic Review」Sports Medicine - Open 12(1):51, 2026(DOI: 10.1186/s40798-026-01020-1・14研究のシステマティックレビュー。著者自身が全アウトカムでエビデンスの確実性を low〜very low と評価。AFTシューズを扱ったのは4研究のみ・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Gruber, A. H., Zhang, S., Pan, J., Li, L.「Leg and Joint Stiffness Adaptations to Minimalist and Maximalist Running Shoes」Journal of Applied Biomechanics 37(5):408-414, 2021(DOI: 10.1123/jab.2020-0284・11名の急性のクロスオーバー。論文の要約に実数値は示されていない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Hannigan, J. J., Pollard, C. D.「Differences in running biomechanics between a maximal, traditional, and minimal running shoe」Journal of Science and Medicine in Sport 23(1):15-19, 2020(DOI: 10.1016/j.jsams.2019.08.008・同一メーカーでソール厚だけが異なる3足の比較(20名)。傷害は測定していない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Alexe, C. I., Choudhary, P. K., Choudhary, S., Saha, S., Panaet, E. A., Alexe, D. I.「Emerging sports footwear technologies and their effects on running economy, biomechanics, and performance: a systematic review」BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation 18(1):290, 2026(DOI: 10.1186/s13102-026-01721-w・14研究のシステマティックレビュー。荷重率について他の2つのレビューと逆向きの報告を含むが、元になった研究を論文の要約から特定できないため当サイトは数値を引用しない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Kulmala, J.P., Kosonen, J., Nurminen, J., Avela, J.「Running in highly cushioned shoes increases leg stiffness and amplifies impact loading」Scientific Reports 8:17496, 2018(DOI: 10.1038/s41598-018-35980-6・男性12名・かかと接地・マキシマリスト(Hoka Conquest)vs 従来型(Brooks Ghost 6)・10/14.5km/h。14.5km/hで衝撃ピーク+10.7%・荷重率+12.3%(原典抄録で逐語確認・2026-08-24)。Alexe 2026レビューが逆側の代表として引用していた元研究・2026-08-24確認) ↑本文に戻る

自分の一足で調べるなら:いま履いている靴のかかとのソール厚が何ミリか、メーカーの製品ページで確かめてみてください。→ ランニングシューズの数値の読み方

厚底と薄底で、負担のかかる場所が入れ替わる

厚底と薄底では、体にかかる負担の量ではなく、負担のかかる場所が変わります。この記事で並べた中では、いちばん繰り返し確かめられていて、いちばん実用に近い所見です。

薄いソールと厚いソールの下肢の模式図。薄い側は足首に、厚い側は膝に印が付き、負担の場所が入れ替わることを示す
模式図です(実際の負担の大きさは表していません)。示しているのは量ではなく、負担のかかる場所の入れ替わりです。左=薄いソール(足首・アキレス腱側へ)、右=厚いソール(膝側へ)。タップで拡大できます。

厚さの違う3足で走り比べた研究があります。前足部・中足部から接地するランナー11名を分析したもので、履いたのはソール5mm(ゼロドロップ)・かかと24mm・かかと35mmの3足。重さは217〜229gとほぼ揃えてあります。時速15kmで走ったときの、接地している間の関節の仕事はこうでした。

関節と仕事 薄い靴(5mm) 中間(24mm) 厚い靴(35mm)
足首・正の仕事 46.6 J 41.5 J 34.9 J
足首・負の仕事 65.1 J 58.2 J 49.0 J
膝・負の仕事 24.4 J 24.8 J 28.0 J

※中央値。Jはジュール=仕事の量の単位です。薄い靴と厚い靴の差は、この3項目のいずれも p<0.001 でした。

つまり、薄い靴では足首の仕事が増え、厚い靴では足首の仕事が減って膝の仕事が増える。研究者たちはこれを再配分と呼んでいます。どちらが優れているかという話ではありません。変わるのは、負担をどこで受け止めるかです。

ただし条件は狭いものです。

  • 解析されたのは14名のうち11名(3名はかかとから接地したため除外されています)
  • かかとから接地しない人に限定され、男性のみ、速度は1つだけ
  • ここでの「厚い靴」もかかと35mmで、いま主流の厚底より薄い部類です

研究機関は日本ですが、参加者の国籍は書かれていないので、日本人ランナーを対象にした研究とは言えません。

同じ構造の話は、接地のしかたでも報告されています。前足部から接地する人は、かかとから接地する人に比べて膝にかかる圧力が低いいっぽうで、アキレス腱にかかる力は高くなります。

何を測ったか 前足部接地 かかと接地
膝蓋大腿関節の応力 11.1 ± 2.9 MPa 13.0 ± 2.8 MPa
アキレス腱の張力 体重の6.3 ± 0.8倍 体重の5.1 ± 1.3倍

※アキレス腱の張力は、原文でも体重(body weight)を単位にした倍数で示されています。体重60kgの人なら、その6.3倍の力が腱にかかっている、という読み方です。

  • 女性38名を比べた研究です。習慣的な接地パターンで分けた横断的な比較であって、接地を変えたらどうなるかは示していません
  • 日本の研究でも、前足部・中足部から接地したときのアキレス腱の張力とその累積は、かかとから接地したときより有意に高かったと報告されています

この日本の報告は、成人男性8名・裸足での測定・学会発表の要旨です。

「厚底」と呼ばれているものの実数

シューログが扱う靴の数字も出しておきます。2026年11月3日現在、シューログが扱う166足(生産終了を含む)のうち、メーカー公表のソール厚(かかと)を確認できたのは116足です。

ソール厚(かかと) 足数
25mm未満 0足
25〜35mm未満 10足
35〜40mm 72足
40mm超 34足
  • 中央値は39mm
  • いちばん薄いものでも27mm

研究で薄底として使われるような靴(20mm前後やそれ以下)は、いま主流のブランドのラインナップにはほぼ存在しません。25〜35mmの薄い側も116足中10足と少数派で、厚底か薄底かという二択は、市場では「厚いか、もっと厚いか」に近いままです。

出典(3本)

自分の2足を並べるなら:手持ちの靴を2足選んで、かかとのソール厚と高低差を書き出してみてください。その2足がどれくらい違う靴なのかが、まず数字で見えます。

薄底側から見た同じ話:負担が足首側へ移るという同じ現象を、薄い靴の側から並べた記事があります。→ マラソン練習に薄底シューズは必要か?

厚底を履くと走り方が変わる

厚底を履くと走り方が変わります。ただし変わり方は人によって違い、変わった人にだけ起きる変化があります。以下はどれも、同じ人に2足を履き替えて走ってもらった比較です。「厚底に乗り換えて何ヶ月か経つとどうなるか」を追った研究ではありません。

日本の大学の中長距離選手39名に、2足を履き替えて走ってもらった報告があります。接地のしかた(前足部寄りか、中足部寄りか)を靴ごとに判定したところ、

  • 2足で判定が一致したのは74.4%でした
  • およそ4人に1人は、靴を替えると接地が変わった計算になります

ただし、これを「厚さのせい」とは言えません。 比べた2足は、かかとと前足部の高低差(ドロップ)も0mmと8mmで違います。著者自身が考察で、この大きなドロップによって接地が変わったと推察されると書いています。なお、この報告の性格と条件は次のとおりです。

  • 学会発表の短い要旨(論文としての査読を経る前の段階のもの)
  • 対象は大学の競技者のみ
  • 測定はトレッドミルで1つの速度だけ

走り方の変化を数値で示した原著もあります。男性の大学長距離選手15名を対象に、厚底シューズと従来型を比べたものです。

  • 接地時間が2.3%短くなった
  • 滞空時間が6.4%長くなった
  • 地面を離れる直前の局面(立脚終期)で、股関節・膝・足首のすべてで、関節の角度が変わる勢い(角加速度)が大きくなった

この研究の限界は、著者自身が並べています。

  • キネマティクス(動きの形)だけを測っていること
  • トレッドミルであること
  • 厚底シューズが1種類だけであること
  • 男性のみで人数が少ないこと
  • 比較した従来型シューズを統一できなかったこと(参加者が自分の靴を持ち寄っています)

関節にかかる力そのものは測っていない、と著者が明言しています。

なお、この論文の考察には股関節への負担が増える可能性の指摘がありますが、それは著者の仮説であって、この研究の結果ではありません(衝撃力も怪我も測っていません)。

股関節については、逆向きの日本語の報告もあります。ランニング初心者の男性15名で、プレート入りの靴とプレート無しの靴を履き替えて走った研究では、股関節を内側へ倒そうとする力のかかり方(内転モーメント)が、プレート入りで有意に小さくなっていました(2.48 → 2.24 Nm/kg)。

  • 有意差が出たのは、測定した多数の変数のうち、この内転モーメントを含む3つ(いずれも股関節側の負担が減る向き)にとどまる
  • 数値は中央値である
  • 急性の比較であり、怪我は追跡していない

日本の同じ分野の中でも、向きが揃っていないということです。

足首の内側への倒れ込みは増えやすい。ただし逆の報告もある

着地のとき、足首はかかとごと内側へ少し倒れ込みます。専門用語では外がえし(eversion)と呼ばれ、シューズ売り場で言う回内(プロネーション)に近い動きです。

  • 規格上の定義は「足底が外方を向く動き」で、一見すると逆に読めます
  • 足の裏を基準に言うか、足首の傾きを基準に言うかの違いであって、指しているのは同じ運動です
  • 「外反」という語も見かけますが、日本整形外科学会などの関節可動域の表示法では、外反・内反は変形を意味する用語で、関節運動の名称としては用いないとされています

この記事では運動の名前として外がえしを使います。そして、厚いソールでこの内側への倒れ込みが増えるというのが、この分野でいちばん多くの研究が同じ向きを指している所見です。

  • 14研究のレビュー:厚いソールでピークの外がえしが増加

  • 同一メーカー3足の比較(20名):外がえしが最も少なかったのは真ん中の厚さで、厚い靴と薄い靴の両方で増えました

  • エリート23名(女性11名・男性12名):カーボンプレート入りで後足部の外がえしの可動域が大きかった

  • 日本の大学競技者68名:接地パターンが変わった群でのみ、立脚初期以降の内側への倒れ込みが有意に大きくなりました

  • 20名の比較は、この論文の要約に実数値がなく、どれだけの差だったかは書けない状態です

  • エリート23名の比較は、著者自身が「変化は小さかった」と明記し、要約に実数値がないため、どれだけ動いたかは書けません

  • 日本の大学競技者68名で起きたのは接地パターンが変わった群だけで、68名全体で起きたことではありません

いっぽう、倒れ込みが減ったという報告もあります。男性15名を対象にした研究では、カーボンプレート入りの厚底で次のことが起きました。

  • 接地角度が平均4.17°減った
  • 体重がかかる局面での足首の内側への倒れ込み(距骨下関節の外がえし)も減少した

比較の相手も測り方も違うので単純には並べられませんが、この分野の所見が割れている実例です。

そして最も重要なのは、内側への倒れ込みが増えると怪我が増える、という因果関係を示した研究は無いことです。倒れ込みは動きの指標であって、怪我そのものではありません。

「厚いほど不安定」ではありません

ソール厚が50mm・35mm・27mmの3足で走り比べた実験の結果は、次のとおりです。

  • 50mmで、股関節の安定性の指標が下がりました
  • 重心の上下動は、ソールが厚いほど大きくなりました

ただし単調な関係ではありません。 足首が倒れている時間の差は、次のとおりです。

比べた2足 差 p値
50mmと35mm 差あり p=0.006
35mmと27mm 差あり p=0.046
50mmと27mm 差なし p=0.371

倒れている時間がいちばん短かったのは、真ん中の35mmです。著者の言葉では、more is not always better——多ければ良いというものではない——となります。

  • アディダス社から資金と物品の提供を受けています
  • 参加者は男性17名のみです
  • 比較した3足のうち、いちばん薄い1足だけがカーボンのロッドを持っていません
  • 人によるばらつきも極端に大きい(平均より標準偏差のほうが大きい項目があります)
  • 怪我も関節への負担も測っていません
出典(5本)

自分の走りをメモするなら:厚底に替えた最初の数回だけでいいので、走ったあとにどこが張ったかを一行書き残してみてください。変わったのが自分かどうかは、そこにしか出ません。

骨の怪我は増えるのか — 両論があって決着していない

増える側の報告と増えない側の報告が両方あって、決着していません。だからこの記事は、両方をそのまま並べます。片側だけを読んで決めると、判断を誤るからです。

増える側

カーボンプレート入りシューズを履いていたランナーに、舟状骨(足の甲の骨)の骨傷害が5例起きたという報告があります。

  • ヨーロッパのジュニアエリートと北米の年長の持久系選手という、独立した2つの集団から集められたものです
  • 著者らは、この靴による舟状骨骨傷害を記録した最初の公表例だと書いています

この5例から発生率は一切分かりません。 症例をまとめた報告(症例集積)で、中身は次のとおりです。

  • 分母がない(何人が履いていて5例だったのかが不明)
  • 対照群もない
  • 著者自身が、各症例の受傷機序は決定できないと明記
  • 5例のうち2例には、同じ骨の怪我の既往あり

いっぽうで、この論文は著者4名全員が利益相反なしと明記し、資金提供も受けていないと明記しています。

同じ研究グループを含むエリート23名の測定でも、カーボンプレート入りで骨の怪我に関連するとされる指標がいくつか増えました。

  • 著者自身が変化は小さかったと書いており、臨床的な意味は主張していません
  • ある1日の測定であって、怪我の発生を追跡したものではありません

増えない側

市民ランナー30名を対象にした研究は、怪我に関連するとされる指標を増やすことなく走りのラクさが改善したと結論しています。

ただしこの結論は、比較相手の取り方で変わります。 同じ論文の中に、プレート入りは、同じフォームでプレート無しの靴より平均の荷重率が有意に高かった(p=0.006)と書かれています。比較の基準による見え方は、次のとおりです。

比較の基準 見え方
TPU素材の靴 怪我に関連するとされる指標は、増えていない
同じフォームのプレート無し 平均の荷重率が、有意に高い

どちらも同じデータです。

男性15名を対象にした別の研究は、もっとはっきりしています。従来型に比べた足関節のピーク関節反力は、次のとおりです。

靴 従来型との差
ミニマリストシューズ 3.07体重分増やした
カーボンプレート入りの厚底 1.84体重分減らした

ヒラメ筋と長腓骨筋のピーク筋力も減っています。著者らは、力学的な負荷の観点から見るかぎり、自分たちの結果は骨傷害の懸念を示した先行報告に異議を唱えるものだと書いています。

ただしこれは逆動力学による推定値であって、直接測ったものではありません。男性15名の急性の比較で、怪我は追跡していません。

差が出なかった、という日本語の報告もあります。一般成人男性9名が、厚底と薄底でそれぞれ1週間・約41kmを同じペースで走った実験では、骨代謝マーカーに条件間の差は見られませんでした。骨代謝マーカーとは、血液などを調べて、骨が新しく作られる速さと壊される速さを推し量る指標のことです。

  • 9名・1週間という規模では、差が無いことの証明にはなりません
  • どの骨代謝マーカーを測ったのかが、発表の要旨に書かれていません

「まだ調べられていない」のではありません

骨の怪我の予防について、ランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように分けて比べる、いちばん確かめる力の強い方法)だけを集めたレビューがあります。そこには、シューズについてはメタ解析——複数の研究の結果を統計的にひとつにまとめ直す方法——を実施できなかったと書かれています。足底装具との違いは、次のとおりです。

対象 このレビューでの扱い
足底装具 軍隊の環境での試験を統合して効果が出た(リスク比 0.47、95%信頼区間 0.26〜0.87)
シューズ 入った試験は軍用ブーツの2本だけ

シューズの種類を比べて骨の怪我を数えたランダム化比較試験はまだ無く、シューズに利益があるかどうかは依然として不明——著者らはそう書いています。

まとめると、現在地はこうです。厚底カーボンの安全性は調べられ始めていて、結論が割れている。そして「厚底カーボンを履いた何人が、何年後にどうなったか」を数えた長期の追跡——分母のある研究——は、この記事で並べた中には一本もない。

5例のうち3例に共通していたこと

先ほどの5例に戻ります。読者にとって実用的なのは、骨の名前ではなくそのときの状況です。

  • ある選手は、その新しいカーボンシューズを初めて履いたのが10kmロードレース本番でした
  • 別の選手は、そのシューズを事前の練習でもレースでも実質使っていませんでした(ハーフマラソンで発症)
  • もう1人は、事前に2〜3回、ごく短い距離しか履いていませんでした(22マイルのロング走で発症)

5例中3例は、慣れていない靴でいきなり本番だったということです。これは「カーボンだから」ではなく「慣れていない靴で急に長い距離・速いペースを走ったから」でも説明がつく——という限界を、著者自身が書いています。その限界が、そのまま読者への実用的な示唆です。 著者らも、カーボンプレートシューズへゆっくり段階的に移行することを、選択肢のひとつとして挙げています。

出典(6本)
  • 出典:Tenforde, A., Hoenig, T., Saxena, A., Hollander, K.「Bone Stress Injuries in Runners Using Carbon Fiber Plate Footwear」Sports Medicine 53(8):1499-1505, 2023(DOI: 10.1007/s40279-023-01818-z・論説+症例集積5例(後ろ向きカルテレビュー)。分母も対照群もなく、著者自身が「各症例の受傷機序は決定できない」と明記。著者4名全員が利益相反なし・資金提供なしと明記・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Bruneau, M. M., Gaudette, L. W., Sirls, E., Hollander, K., Saxena, A., Hoenig, T. et al.「Biomechanics associated with bone stress injuries while using advanced footwear technology in elite distance runners」PM&R 18(Suppl 2):S143-S150, 2026(DOI: 10.1002/pmrj.70153・エリート23名(女性11名・男性12名)の横断的コホート。著者自身が「変化は小さかった」と明記し、論文の要約に実数値・効果量が無いため当サイトは増減の方向のみを書いている・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Kim, H., Ahn, J.「Technologically advanced running shoes reduce biomechanical factors of running related injury risk」Scientific Reports 15(1):17828, 2025(DOI: 10.1038/s41598-025-03029-0・男性15名。逆動力学による推定値であって直接測定ではない。距骨下関節の外反については他の複数の報告と逆向きの結果・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Wang, W., Potthast, W., Torniainen, K., Xu, S., Ammann, K., Jing, Y. et al.「Performance Benefits Without Added Injury Risk? Effects of Advanced Footwear Technology on Running Economy and Biomechanical Risk in Recreational Runners」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 36(4):e70275, 2026(DOI: 10.1111/sms.70275・市民ランナー30名。比較相手により結論が変わる(プレート入りは同じフォームのプレート無しより鉛直平均荷重率が有意に高い)・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:若松健太, 藤田真平, 渡辺久美, 柳田一磨, 渡辺修一郎「ランニングシューズの違いが骨代謝動態に及ぼす影響」ランニング学研究 36(1):68, 2025(DOI: 10.57497/running.36.1_68・学会大会一般研究発表抄録(1ページ)。一般成人男性9名・1週間約41kmの介入で、測定した骨代謝マーカーの種類は抄録に記載がない。差が出なかったことは差がないことの証明ではない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Lavigne, A., Chicoine, D., Esculier, J. F., Desmeules, F., Frémont, P., Dubois, B.「The Role of Footwear, Foot Orthosis, and Training-Related Strategies in the Prevention of Bone Stress Injuries: A Systematic Review and Meta-Analysis」International Journal of Exercise Science 16(3):721-743, 2023(DOI: 10.70252/ZNRS2138・ランダム化比較試験のみを対象としたシステマティックレビュー/メタ解析(11研究)。シューズについてはメタ解析を実施できなかったと明記。2021年11月までの文献・2026-08-24確認) ↑本文に戻る

自分の予定に置き換えるなら:新しい厚底を買ったら、最初にレースで下ろすのはやめて、まず短い距離で何回か履く——その予定を、買った日のうちに書いておいてください。

そもそもカーボンプレートは何を狙って入っているのか

カーボンプレートは、バネのように跳ね返すために入れられたのではありません。 走るたびに足の指の付け根で失われているエネルギーを、失われにくくするために入れられました。

いきなり結論から入ります。「板がしなって、バネのように押し返してくれる」——多くの人がそう思い浮かべるはずの説明を、原典の研究が2本とも否定しています。

プレートを入れた最初の研究(2000年)は、硬い靴について次のように報告しています。

  • 足の指の付け根に蓄えて再利用されるエネルギーを増やしはしなかった
  • そこで失われるエネルギーは減らした

Vaporflyの力学を分解した研究(2019年)は、次のように書いています。

  • ミッドソールのフォームの圧縮では、相当量の機械的エネルギーが蓄積・返還された
  • カーボンプレートの曲げでは、蓄積・返還されなかった

返すためではなく、捨てさせないため。ここが出発点です。以下、提唱された順に4つ並べます。

① 足の指の付け根で捨てているエネルギーを減らす(1997年→2000年)

足の指の付け根の関節からエネルギーが逃げていく模式図
模式図です。足の指の付け根の関節で、エネルギーが失われていくイメージ。

始まりは1997年の観測です。男性10名を分析したところ、足の指の付け根の関節(MTP関節)は接地の大半で反っていて、吸収していたエネルギーは次のとおりでした。

  • ランニングで平均20.9ジュール
  • スプリントで平均47.8ジュール

しかも離地のときにその関節が戻らないため、吸収されたぶんは推進に回らず、靴と足の構造の中で散逸したと書かれています。

この20.9ジュールは、捨てられている量であって、プレートで取り戻せる量ではありません。 ここを取り違えると、以降の話が全部ずれます。

3年後、同じ研究者たちが仮説を明示します。この損失は、ミッドソールの曲げ剛性を上げれば減らせるのではないか。実験では、硬い靴は足首・膝・股関節のエネルギーには影響しなかったものの、足の指の付け根で失われるエネルギーは走行でも跳躍でも減りました。垂直跳びの高さは25名平均で1.7cm高くなっています。

  • 関節の働きまで解析したのは5名だけです(跳躍の高さを測ったほうが25名)
  • 成績として測ったのは跳躍の高さであって、走りのタイムでも走りのラクさでもありません

2006年、ようやく長距離に適用されます。13名での結果は、次のとおりでした。

  • 硬いミッドソールは代謝エネルギーを約1%節約しました
  • 狙いだったはずの、足の指の付け根でのエネルギー吸収には有意差がありませんでした

著者たちは結論にこう書いています——「改善の背後にある機序はいまだ十分には理解されていない」。

効いてはいるが、狙いどおりに効いているとは言えない。 成績は良くなるのに、良くなった理由として立てた仮説のほうは確かめられない——この構図が、このあと並べる説すべてで繰り返されます。

② てこの長さ(ギア比)を変える(2014年→2019年)

地面から受ける力の作用点が前方へ移る模式図
模式図です。地面から受ける力の作用点が、前方へ移るイメージ。

2014年、別の説明が提示されます。曲げ剛性を上げると、地面から受ける力のてこの長さが前方へ移り、その効果は体の先端に近い関節ほど大きいというものです(男性19名)。

ただし同じ論文に、全員を平均すると足首まわりの力のかかり方(モーメント)は有意に増えなかったとも書かれています。しかも反応が2通りに分かれました。

  • 足首の力を増やして、蹴り出しの時間を保つ人
  • 足首の力を減らして、蹴り出しを長くする人

つまり効き方が人によって違うことは、市販の厚底が出てきてから分かったのではなく、機序を調べる段階ですでに見えていたことになります。

2019年、この説明がVaporflyに当てられ、巧妙なてこ(clever lever)と名付けられます。ただしこの研究は男性10名・かかと接地の人のみで、比べた3足は形もフォームも曲げ剛性も全部違う、という条件つきです。プレート単独の寄与を切り出せていないと、後続の研究の著者(同じ研究者本人を含む)が評しています。

③ シーソー効果とロッカー形状(2020年提唱・未決着)

湾曲した板がシーソーのように働く説の模式図。全体が破線で描かれている
模式図です。前足部を押すとかかと側に反力が生まれる、という説のイメージ(破線で描いているのは、未決着の説のためです)。

2020年から2021年にかけて、シーソー効果(teeter-totter effect)という説が提唱されます。接地中に圧力の中心が前へ進むにつれ、湾曲したプレートによって靴が立脚中期に傾き、前足部にかけた力がかかと側に反力を生む、という考えです。

(この提唱の原典は2ページの短い論説で、当サイトは本文を確認できていません。上の説明は、この説を引用した2本の原著から取っています。なお提唱者2名が経営する会社は、複数のシューズメーカーから資金提供を受けていることを、論説の利益相反欄に明記しています。)

この説を実験で確かめた報告は、2024年に出ています。Vaporfly 4%とフラットな靴を比べ、シーソーとして働く力を推定したものです。ただし著者自身が、次の三重の留保をつけています。

  • あくまで測り方がうまくいくかの確認(概念実証)である
  • 筋の力のかかり方と、靴が傾く支点の位置が一定だと仮定すれば、という条件つきである
  • その可能性を示すものである

提唱者本人が著者に入っており、独立した検証ではありません。 走りのラクさは測っていないので、シーソーが起きていることと、それで速くなることは別の話のままです。

いっぽう、別のグループの実験は正面から反証しています。曲げ剛性を屈曲・伸展の両方で大きく下げても走りのラクさが実質的に変わらなかったことを根拠に、湾曲プレート単独がシーソーとして働いて6%もの代謝節約をもたらしうるという主張に異議を唱えると書いています(実験の中身は次の④で詳しく書きます)。

ロッカー形状については、その前段で止まっています

「ソールが前に転がるから進む」という説明もよく見ます。ところが2026年のレビューは、その手前でつまずいています。

  • 学術の側は、多様な用語と幾何記述子を用いており、ロッカーを分類するための一貫した定義や閾値は特定されなかった
  • 商業の側の記述は、測定可能なパラメータを欠いた、ブランド固有の定性的な言葉に頼っていた
  • 前向きに(プロスペクティブに)怪我を追いかけた研究は1本もなかった

学術の側が使っていた4語(apex position、rocker angle、curvature radius、toe spring)は、レビューの図では次のように定義されています。

用語 レビューの図での定義
apex position 静的に荷重をかけた状態で、ソールが完全に接地している範囲のいちばん前の点(靴全長に対する割合で表す)
rocker angle 前足部の湾曲と地面がなす角度
curvature radius 前足部の湾曲に当てはめた円の半径
toe spring つま先が地面から浮いている高さ(ただし、アウトソールの先端から測るか、トゥボックスのいちばん上から測るかは、研究によってまちまち)

前向きとは、測り方と追跡の仕方を先に決めておいて、そこから先に起きた怪我を数えていく進め方のことです。

つまり、効くか効かないか以前に、何をロッカーと呼ぶかが業界でも学術でも揃っていません。製品説明どうしを比べられないのには、構造的な理由があるということです。

なお「転がるから速い」も自明ではありません。ロッカー形状の靴で走った女性18名の実験では、標準的な靴より酸素摂取量が4.5%高く(p<0.001)なりました。

  • 著者自身が、3種の靴は質量が違い、エネルギー消費の増加の一部は大きい質量によると考えられると結論に書いています
  • 参加者はロッカー未経験者です
  • ここでの靴は治療・予防用であって、カーボンプレート入りのレーシングシューズではありません

そして、ロッカー形状こそがプレートの狙いだと述べた原著を、当サイトは特定できませんでした。探した範囲で見つからなかった、というだけです。存在しないという意味ではありません。

探した範囲

PubMedで rocker 系の4通り、curvature 系の3通りの検索語を当てました(2026-08-24時点)。ヒットは rocker 系が合計9件、curvature 系が合計4件で、この中に「ロッカー形状こそがプレートの狙いだ」と述べた原著は見つかりませんでした。

④ プレート単独ではなく、フォームとの組み合わせ(2019年→2022年)

フォームが沈んで戻り、その中にプレートが埋まっている模式図
模式図です。フォームが沈んで戻る動きが主役で、プレートはその中に埋まっている、というイメージ。

いちばん明快な実験は2022年のものです。同じVaporfly 4%を2足用意し、片方だけ前足部のカーボンプレートに横方向の切り込みを6本入れました(プレートを抜くとミッドソールが壊れるため)。機械試験で、屈曲剛性は約66%、伸展剛性は約72%落ちています。参加者にはシューカバーをかぶせ、どちらを履いているか分からないようにしてあります。

見たもの 結果
走りのラクさ 有意差なし(p=0.306)
平均の差 プレートを切った側が0.55%悪いだけ(95%信頼区間は −1.44%〜0.40%)
個人差 −3.3%〜+3.3%(14名中4名は切ったほうが良くなった)
事前の仮説 「切れば約2%悪化するはず」で、外れた

力学的な差が出たのは足の指の付け根の関節だけで、足首と膝は角度も力のかかり方も仕事も変わっていません。著者らの結論は、Vaporflyの4%はよく沈んでよく戻る(きわめて柔らかく変形し、反発性の高い)ミッドソール、シューズの形状、そしてプレートの他の効果の、組み合わせと相互作用から生じている可能性が高い、というものです。

  • プレートは切っただけで靴の中に残っており、フォームとの相互作用や横方向の剛性には依然として効いています
  • かかと部分のプレートは残したままです
  • 男性14名・単一速度・Vaporflyのみで、検定力も限られます

そして利益相反欄には、著者がプーマとサッカニーから研究助成を受けていると明記されています(この研究には関与していないと書かれています)。

では、ふくらはぎの筋肉の動きまで測って確かめるとどうなるか。こちらは結論が真っ二つに割れています。

支持する側(2021年・男性14名) 否定する側(2020年・男性15名)
何をした 柔らかい靴に厚さ違いのプレートを挿入 別の靴に厚さ違いのプレートを挿入(剛性を約6.5倍まで)
筋の動き ふくらはぎの筋が短くなる速さが遅くなった(p=0.004) ヒラメ筋の力も長さも速度も変わらなかった(p≥0.080)
走りのラクさ 有意差なし(p=0.298) 有意差なし(p=0.458、効果量 d=0.04)

支持する側の論文でも、主要な結果である代謝コストには有意な効果がありません。改善が出たのは、各参加者について最も良かった条件だけを選んで対照と比べた事後の解析で、その比較は偽陽性の確率を上げると著者自身が書いています。しかも14名中5名は、意味のある改善の基準に届いていません。

否定する側の論文は、タイトル自体がカーボンをソールに足しても走りのラクさは改善しないかもしれないというものです。考察では、次の2点が書かれています。

  • Nikeが優れた経済性を示すのは曲げ剛性ではなく、よく沈んでよく戻るミッドソールフォームによるのかもしれない
  • おそらくNikeのカーボンプレートは、ミッドソールのフォームが機能するために必要な構造を与えているのだろう

なおこの2本は噛み合っています。支持する側が否定する側を名指しし、走った速度が違うことで結果が割れた可能性を指摘しています。

  • 否定する側は 3.5 m/s = 約12.6km/h の一定速度で、マラソンのレースペースより遅い測定です
  • どちらも、まっすぐなプレートを既製の靴に挿入した条件になります
  • 市販の湾曲プレート入りレーシングシューズそのものではありません

補助線を2本だけ引いておきます。

  • 同じカーボンプレートでも、置き場所(中敷き位置か、埋め込みか、底側か)と形(フラットか、湾曲か)で影響が違うというレビューの指摘です
  • 呼び方の話です。ミッドソールの変形をX線で撮影した材料工学の研究では、カーボンプレートはstiffening element(補強要素)と呼ばれています

1つめは、それが研究間のばらつきを部分的に説明する、という指摘です。カーボン入りと書いてあれば同じもの、ではありません。2つめは、つくる側から見ると、プレートはバネではなく構造を硬くする部材だということです(この研究は人が走っておらず、共著者2名と資金がアディダス社です)。

ちなみに同じ問いは、日本でも2010年に立てられています。ソールの曲げ剛性が違う4足で走ったときの、支持脚の関節の働きを調べたものです。

  • 成年男性4名の講演論文集です
  • 公開PDFは文字認識が劣化しているため、当サイトは数値を一切引用しません
  • 読み取れた範囲では、股関節や膝では剛性の影響が確認できず、足首では効き方が人によって違いました
  • 著者2名はアシックス所属です
出典(15本)
  • 出典:Stefanyshyn, D. J., Nigg, B. M.「Mechanical energy contribution of the metatarsophalangeal joint to running and sprinting」Journal of Biomechanics 30(11-12):1081-1085, 1997(DOI: 10.1016/s0021-9290(97)00081-x・男性10名。論文の要約に「地面反力が関節より遠位に来るまでMTPモーメントは無視できると仮定した」と明記されたモデル上の仮定を含む・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Stefanyshyn, D. J., Nigg, B. M.「Influence of midsole bending stiffness on joint energy and jump height performance」Medicine & Science in Sports & Exercise 32(2):471-476, 2000(DOI: 10.1097/00005768-200002000-00032・関節エネルギーの解析は5名、跳躍高は25名。走行のタイムや経済性は測っていない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Roy, J. P. R., Stefanyshyn, D. J.「Shoe midsole longitudinal bending stiffness and running economy, joint energy, and EMG」Medicine & Science in Sports & Exercise 38(3):562-569, 2006(DOI: 10.1249/01.mss.0000193562.22001.e8・13名。結論欄に「改善の背後にある機序はいまだ十分には理解されていない」と著者自身が明記・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Willwacher, S., König, M., Braunstein, B., Goldmann, J. P., Brüggemann, G. P.「The gearing function of running shoe longitudinal bending stiffness」Gait & Posture 40(3):386-390, 2014(DOI: 10.1016/j.gaitpost.2014.05.005・男性19名・単一速度・急性の比較。平均では足関節モーメントは有意に増加していない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Hoogkamer, W., Kipp, S., Kram, R.「The Biomechanics of Competitive Male Runners in Three Marathon Racing Shoes: A Randomized Crossover Study」Sports Medicine 49(1):133-143, 2019(DOI: 10.1007/s40279-018-1024-z・男性10名・リアフット接地者のみ。比較した3足は形状もフォームも曲げ剛性も異なり、プレート単独の寄与を切り出せていない(後続研究の著者自身がそう評している)・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Nigg, B. M., Cigoja, S., Nigg, S. R.「Teeter-totter effect: a new mechanism to understand shoe-related improvements in long-distance running」British Journal of Sports Medicine 55(9):462-463, 2021(DOI: 10.1136/bjsports-2020-102550・2ページのエディトリアル(査読付き原著ではない)。利益相反欄に、著者2名が経営する会社がAdidas・Salomon Group・On AG・Li-Ning・Mizuno・Brooks Sportsから資金提供を受けていると明記されている・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Subramanium, A., Vienneau, J., Nigg, S. R., Nigg, B. M.「A methodological proof-of-concept of the teeter-totter effect」Journal of Sports Sciences 42(15):1432-1438, 2024(DOI: 10.1080/02640414.2024.2394746・15名。著者自身が「概念実証」「筋モーメントとピボット点が一定と仮定して」「可能性を示す」と三重に留保している。提唱者本人が著者に入っており独立検証ではない。代謝コストは測っていない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Khusal, P., Frecklington, M., Gardner, S., Jackson, A.「Rocker Geometry in Running Footwear: A Scoping Review of Definitions, Commercial Descriptors and Outcome Measures」Journal of Foot and Ankle Research 19(3):e70200, 2026(DOI: 10.1002/jfa2.70200・19研究のスコーピングレビュー。資金欄にASICS New Zealandが含まれる(研究デザイン等には関与していないと明記)。検討したブランド数が要約と本文で食い違うため当サイトはブランド数を引用しない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Sobhani, S., Bredeweg, S., Dekker, R., Kluitenberg, B., van den Heuvel, E., Hijmans, J., Postema, K.「Rocker shoe, minimalist shoe, and standard running shoe: a comparison of running economy」Journal of Science and Medicine in Sport 17(3):312-316, 2014(DOI: 10.1016/j.jsams.2013.04.015・女性18名。著者自身が「エネルギー消費の増加の一部はロッカーシューズの大きい質量による」と結論に明記。対象はロッカーシューズ未経験者で、ここでのロッカーシューズは治療・予防目的の靴・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Healey, L. A., Hoogkamer, W.「Longitudinal bending stiffness does not affect running economy in Nike Vaporfly Shoes」Journal of Sport and Health Science 11(3):285-292, 2022(DOI: 10.1016/j.jshs.2021.07.002・男性14名(力学は13名)・単一速度。プレートは抜けないため切り込みを入れており、プレート自体は靴の中に残っている。利益相反欄に、著者がPuma North AmericaとSauconyから研究助成を受けていると明記(当該研究には関与していないと記載)・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Cigoja, S., Fletcher, J. R., Esposito, M., Stefanyshyn, D. J., Nigg, B. M.「Increasing the midsole bending stiffness of shoes alters gastrocnemius medialis muscle function during running」Scientific Reports 11(1):749, 2021(DOI: 10.1038/s41598-020-80791-3・男性14名。主要な結果である代謝コストには有意な効果が無く、改善が出たのは各人の最良条件だけを対照と比べた事後の解析(著者自身が偽陽性の確率を上げると明記)。まっすぐなプレートを既製の柔らかい靴に挿入した条件・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Beck, O. N., Golyski, P. R., Sawicki, G. S.「Adding carbon fiber to shoe soles may not improve running economy: a muscle-level explanation」Scientific Reports 10(1):17154, 2020(DOI: 10.1038/s41598-020-74097-7・男性15名・3.5 m/s(マラソンのレースペースより遅い)。まっすぐなプレートをインソール位置に置いた条件で、埋め込み型の湾曲プレートではない。利益相反は無しと明記・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Ortega, J. A., Healey, L. A., Swinnen, W., Hoogkamer, W.「Energetics and Biomechanics of Running Footwear with Increased Longitudinal Bending Stiffness: A Narrative Review」Sports Medicine 51(5):873-894, 2021(DOI: 10.1007/s40279-020-01406-5・ナラティブレビュー(システマティックレビューではない)・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Ganju, E., Hanson, H., Wormser, M., Chawla, N.「Deformation mechanisms in marathon running shoes elucidated by X-ray micro-computed tomography and digital volume correlation analysis」Scientific Reports 15(1):40679, 2025(DOI: 10.1038/s41598-025-19043-1・材料試験であって被験者はおらず、走りのラクさも傷害も測っていない。共著者2名がadidas AG所属で資金欄もadidas AG。数値は引用していない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:仲谷政剛, 小池関也, 石川達也, 西脇剛史「B18 ソール曲げ剛性が走動作における支持脚関節機能に及ぼす影響(シューズIII・アダプテッド用器具)」シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2010:276-281, 2010(DOI: 10.1299/jsmeshd.2010.276・査読付き原著ではなく講演論文集。成年男性4名。著者2名(仲谷・西脇)はアシックス所属。公開PDFはスキャン由来の文字認識が劣化しており、当サイトは数値を一切引用していない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る

自分の一足を見直すなら:手持ちのカーボンプレート入りシューズについて、プレートが埋め込みなのか中敷き位置なのか、フラットなのか湾曲なのかを製品ページで探してみてください。書かれていないことのほうが多い、というのも情報です。

狙いどおりに効いて、速くなるのか

平均では走りのラクさが4〜5%改善します。ただし「カーボンプレートが効いている」という説明は成り立っておらず、効き方は人によって大きく違います。

まず、部品ごとには説明できていません

48本の研究(延べ878名)をまとめたメタ解析があります。

  • カーボンプレート入りの厚底は、酸素摂取量を有意に低下させた(SMD −0.44、95%信頼区間 −0.60〜−0.28、p<0.001)
  • しかし曲げ剛性だけ、あるいはミッドソールのエネルギーリターンだけを取り出すと、酸素摂取量にも足首の力にも有意な影響はなかった
  • 効果はランナーの水準と速度で変わる。速く走る人ほど、そして訓練された人ほど利益が大きい

※SMDは、単位の違う研究をまとめて比べるために、差の大きさを標準化した指標です。0から離れるほど差が大きいことを表します。

このメタ解析の著者自身が、ほぼすべての項目で「エビデンスの質は低い〜非常に低い」=今後の研究で結論が変わりうると評価しています。「速い人ほど効く」という向きは、そのまま裏返すと遅い市民ランナーほど利益は小さいという意味になります。

前の節で見た「プレートを切っても走りのラクさが変わらなかった」実験も、同じ方向です。

ただし、これと正面から食い違うメタ解析もあります。 12本の研究をまとめたもので、次のように報告しています。

  • 曲げ剛性を上げると、走りのラクさが改善する(SMD −0.43、95%信頼区間 −0.58〜−0.28、p<0.001)
  • 湾曲したプレートではプレート無しに比べて3.45%改善したが、フラットなプレートでは改善が無かった

片方は「プレートを無効化しても変わらない」、もう片方は「湾曲なら3.45%効く」。 どちらも複数研究をまとめたもので、どちらかが明らかに劣るとは言えません。割れているものは、割れていると書くしかありません。

2026年の最新のメタ解析(15研究)は、関節の動きの側から答え合わせをしています。

  • 脚のスティフネス、膝・股関節・足の指の付け根のパワーは、いずれも有意差なし
  • 境界域だったのは、足首のパワーの低下だけ(SMD −0.71、95%信頼区間 −1.42〜0.00、p=0.05)

脚のスティフネスとは、脚全体を1本のバネと見たときの硬さのことで、接地して脚が縮んだ量に対してどれだけの力がかかっていたかで表します。結論は、カーボンプレート入りは関節パワーや脚スティフネスに一貫した変化をもたらさず、生体力学的な適応は微細で、下肢力学の系統的な再配分は無いというものです。確実性は low〜moderate、足の指の付け根のパワーの信頼区間は −1.87〜2.12 と極端に広く、この項目はほとんど何も言えていません。

平均では、たしかに速い

数字そのものは繰り返し出ています。

  • 男性18名(全員US10・靴の重さを揃えた比較)で、4.16%・4.01%の改善(p<0.001)。18名全員が3つの速度すべてで改善しました
  • 日本の男性大学長距離選手10名(5000m 14分33秒前後)で、平均5.7%の改善

日本語の原著のほうには、見落とせない注記がついています。著者自身が、比較した2足はどちらもソール厚25mm以上の厚底であり、主な違いはソールの厚さではなく、カーボンプレートとソール素材であると書いているのです。厚底だから速い、という説明は、この研究の設計の時点で成り立ちません。

なお前者はNike社からの資金提供研究で、著者にNike社員と有償コンサルタントが含まれます。5分間の実験室での代謝測定であり、レースの成績を直接測ったものではありません。

ただし「あなたに効くか」は別の話です

平均の裏側には、これだけの幅があります。

研究 参加者 個人差の幅
男性18名 高水準ランナー −1.59%〜−6.26%(全員改善)
男女24名 高度に訓練された選手 +0.50%〜−5.34%(悪化した人がいる)
各群7名 世界クラスのケニア人/欧州のアマチュア 世界クラス群で 11.3%の悪化〜11.4%の改善(アマチュア群は1.1%の悪化〜9.7%の改善)
日本の選手10名 大学長距離 +17.2%改善の選手と、4.3%低下の選手が同居
48研究のメタ解析 延べ878名 9.6%の悪化から9.7%の改善まで

±11%という幅は、そのまま個人差として読んではいけません。 その研究の著者自身が本研究は検出力不足であると明記しています。条件は次のとおりです。

  • 世界クラス群の検出力を5.2〜20.4%と算出(80%を得るには32〜1705名が必要とも書いています)
  • 各群7名、女性はゼロ
  • アディダス社の資金で、著者2名が同社社員

日本の研究の個人差分析も、1名ずつの事例観察です。

それでも、改善しなかった人が複数の研究に実在することは動きません。先ほどの日本の原著の著者も、すべてのランナーがこの靴で走りのラクさの改善を得られるわけではない、と結論しています。

そして、自分に合う硬さを事前に当てる方法は見つかっていません。2004年、34名のスプリンターで曲げ剛性を系統的に変えた実験は、平均としては成績が上がったいっぽうで、各選手が最高の成績を出す剛性は個人ごとに異なり、次のいずれとも関連しなかったと報告しています。

  • 体重
  • 身長
  • 靴サイズ
  • 競技レベル

予測する手がかりが見つからなかったことが、この論文の主結果の半分です。

誰がお金を出しているか

この分野の研究は、シューズメーカーと近い距離にあります。片側だけを書くと偏るので、両側を並べます。

  • Nike側:4%前後の改善を報告した代表研究と、Vaporflyの力学を分解した研究
  • アディダス側:ケニア人選手とアマチュアを比べた研究、ソール厚と安定性の研究、材料工学の研究
  • プーマ・サッカニー側:Vaporflyのプレートを切った研究(Nike製品を、競合から助成を受けた研究者が調べています)
  • アシックス側:ロッカーのレビューの資金、日本の曲げ剛性の講演論文の著者
  • デカトロン側:ドロップとクッション硬度の大規模ランダム化比較試験
  • メーカー6社と関係する会社:シーソー効果を提唱した論説

資金源があるから間違い、ということではありません。 ただ、どちらの向きの結論にもスポンサーがついている、という事実は知っておいて損がありません。

出典(8本)
  • 出典:Stephen, C.H.N., Kelly, L.A., Schuster, R.W., Diamond, L.E.「The effects of running shoe longitudinal bending stiffness and midsole energy return on oxygen consumption and ankle mechanics and energetics: A systematic review and meta-analysis」Journal of Sport and Health Science 14:101069, 2025(DOI: 10.1016/j.jshs.2025.101069・48研究・n=878のメタ解析。著者自身がエビデンスの質を low / very low と評価している・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Rodrigo-Carranza, V., González-Mohíno, F., Santos-Concejero, J., González-Ravé, J. M.「The effects of footwear midsole longitudinal bending stiffness on running economy and ground contact biomechanics: A systematic review and meta-analysis」European Journal of Sport Science 22(10):1508-1521, 2022(DOI: 10.1080/17461391.2021.1955014・12研究のメタ解析。湾曲プレートで3.45%改善という結果は、同じ靴のプレートを無効化した実験(healey-2022)と食い違う・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Giachetti Martin, S., Kobayashi, E. N., Amaral Coelho de Azevedo, L., Bonini Vieira Campanhã, D., Escudeiro de Oliveira, D., Baches Jorge, P.「Carbon plates in running shoes biomechanics: a systematic review and meta-analysis」Frontiers in Sports and Active Living 8:1764338, 2026(DOI: 10.3389/fspor.2026.1764338・15研究のメタ解析。著者自身がエビデンスの確実性を low〜moderate と評価。MTPパワーの信頼区間は −1.87〜2.12 と極端に広い・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Hoogkamer, W., Kipp, S., Frank, J.H., Farina, E.M., Luo, G., Kram, R.「A Comparison of the Energetic Cost of Running in Marathon Racing Shoes」Sports Medicine 48(4):1009-1019, 2018(DOI: 10.1007/s40279-017-0811-2・オンライン先行公開2017-11-16/同誌に訂正記事あり(doi:10.1007/s40279-017-0840-x)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:丹治史弥, 栗原俊, 西出仁明, 両角速, 山田洋, 宮崎誠司「カーボンファイバープレート内蔵厚底ランニングシューズによるランニングエコノミーへの影響」ランニング学研究 34(1.2):1-12, 2023(DOI: 10.57497/running.34.1.2_1・原著。男性の大学長距離選手10名。比較した2足はどちらもソール厚25mm以上であり、著者自身が「主な違いはソールの厚さではなくプレートとソール素材」と明記している。個人差の分析は1名ずつの事例観察・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Barnes, K.R., Kilding, A.E.「A Randomized Crossover Study Investigating the Running Economy of Highly-Trained Male and Female Distance Runners in Marathon Racing Shoes versus Track Spikes」Sports Medicine 49(2):331-342, 2019(DOI: 10.1007/s40279-018-1012-3・男女24名。個人差が大きく、わずかに悪化した参加者(+0.50%)が論文の要約に明記されている・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Knopp, M., Muñiz-Pardos, B., Wackerhage, H., Schönfelder, M., Guppy, F., Pitsiladis, Y., Ruiz, D.「Variability in Running Economy of Kenyan World-Class and European Amateur Male Runners with Advanced Footwear Running Technology: Experimental and Meta-analysis Results」Sports Medicine 53(6):1255-1271, 2023(DOI: 10.1007/s40279-023-01816-1・各群7名。著者自身が検出力不足であると明記し、世界クラス群の検出力を5.2〜20.4%と算出している。adidas社の資金提供で著者2名が同社社員。女性は含まれていない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Stefanyshyn, D., Fusco, C.「Increased shoe bending stiffness increases sprint performance」Sports Biomechanics 3(1):55-66, 2004(DOI: 10.1080/14763140408522830・アスリート34名の40mスプリント。長距離走の研究ではない。最適な曲げ剛性を予測する手がかりが見つからなかったことが本論文の主結果の半分・2026-08-24確認) ↑本文に戻る

自分の記録で確かめるなら:厚底カーボンで走った日と、そうでない日の同じコース・同じ心拍帯のペースを並べてみてください。平均の4%より、自分の数本のほうが判断材料になります。

使い分けをどう決めるか

怪我予防の観点で、厚底と薄底のどちらが安全だと言える段階にはありません。研究からはっきり言えるのは、次の2つです。

  • 負担のかかる場所が変わること
  • 慣れていない靴で急に長く・速く走らないこと

そのうえで選ぶなら、どこに負担を置きたいかで決めることになります。

まず、いきなり本番に下ろさない

これがいちばん具体的で、いちばん実行しやすい示唆です。骨傷害の5例のうち3例は、ほとんど履いていない靴でレースやロング走に出た状況でした。著者らが選択肢として挙げるのも、カーボンプレートシューズへゆっくり段階的に移行することです。

「カーボンだから危ない」ではなく、「慣れていない靴で急に長い距離・速いペースを走るのが危ない」。後者なら、明日から避けられます。

何足かを履き分けること自体には、弱い裏づけがあります

市民ランナー264人を追跡した調査では、複数のシューズを並行して使っていた人の故障リスクは、そうでない人の約6割にとどまりました(ハザード比0.614、95%信頼区間0.389〜0.969)。

ただし超えてはいけない線が2つあります。

  • これが観察であって因果ではないこと
  • この研究が靴の種類を区別していないこと

履き分けの中身——厚底と薄底を組み合わせるのがよいのか、同じ種類を何足も持つのがよいのか、そもそも何足なのか——は、この研究からは何も分かりません。信頼区間の上限0.969は1にかなり近い位置にあります。

実態の側からも似た絵が見えます。非エリートランナー61名へのアンケートの結果は、次のとおりです。

  • 練習量が多い人ほど、カーボンプレート入りを毎回のセッションでは履いていませんでした(相関 R=−0.5)
  • 訴えの中心は、ふくらはぎでした

走る人ほど、使いどころを選んでいるということです。これは対照群のないアンケートなので、傷害率の数字は当サイトでは扱いません。

「重い人ほど柔らかい靴を」は、この試験では裏づけられませんでした

848名を6ヶ月追ったランダム化比較試験の結果です。

  • 硬いクッションの靴を受け取った人のほうが、故障リスクが高かった(サブハザード比 1.52、95%信頼区間 1.07〜2.16)
  • 体重そのものは、故障リスクと関連しなかった(サブハザード比 1.00、95%信頼区間 0.99〜1.01)
  • 保護的な効果が確認されたのは軽いランナーだけです(1.80、95%信頼区間 1.09〜2.98)
  • 重いランナーでは差を確認できませんでした(1.23、95%信頼区間 0.75〜2.03)

ここでの「クッション」は剛性(N/mm)であって、ソールの厚さではありません。 柔らかい61.3 N/mm と硬い94.9 N/mm を比べたもので、厚さの話に流用した瞬間に誤りになります。

  • 第2著者は、スポーツ用品大手デカトロンの研究部門に所属しています

柔らかければ速い、でもありません。女性17名で硬度と素材を分けた実験では、走りのラクさの変化は次のとおりでした。

変えたもの 走りのラクさの変化
同じEVAで硬度だけを下げる 0.21%しか変わらず
スーパークリティカルフォームに替える 1.99〜2.21%改善

効いていたのは柔らかさではなく素材のほうです(ただし著者自身が、反発性だけを変えた比較にはなっていないと認めています)。

最後は快適さで選んでよい。ただし保証ではありません

2015年の総説は、次の2点を述べています。

  • 衝撃特性と足関節回内が傷害リスクの主要な予測因子だという説には、決定的なエビデンスがない
  • 代わりに、快適性フィルタという枠組みを提案している

ランナーは自分にとって快適な製品を直感的に選び、それが自分本来の動きの経路にとどまることを可能にする、という考え方です。

これは提案された枠組みであって、証明された法則ではありません。 快適なら怪我をしない、という意味ではない、ということです。数値で候補を絞ったあと、最後に履いて選ぶことの後ろ盾にはなりますが、それ以上ではありません。

数値で見ると、選択肢はおおむね3つに分かれます

シューログが扱う166足の実データです(2026年11月3日現在)。

  • プレートはカーボン50足/ナイロン10足/樹脂3足/無し81足(22足は未取得)
  • カーボンプレート入りでソール厚が分かる34足は、1足を除いて34.5〜40mmに収まります。うち12足が39.5mmです。外れる1足はプーマの FAST-RB NITRO ELITE 2 LACED(米国公式の値で55mm)で、メーカーが「競技規則に適合していない」と明記しているモデルです
  • いっぽう40mmを超える34足は、20足がプレートを入れていない靴でした
  • その残りは、1足が樹脂プレート入り、2足がナイロンプレート入り、10足がプレート未取得です(カーボンは1足)

World Athletics のシューズ規則(Book C – C2.1A・2026年1月1日発効)では、ロード種目のソール厚の規則上の上限が40mmと定められています。それを踏まえると、この分布は読み解けます。レース用のカーボンプレート入りは規則の上限のすぐ下に集まり、上限の外側にいるのはレースの規則に縛られない設計の靴、という並びです。

つまり市場は、厚いか薄いかではなく、次の3つに大別されています。

  • 規則上限の40mm付近まで厚くしたレーシングモデル
  • 40mmを超えるマックスクッションモデル
  • 35mm前後のデイリートレーナー(いわゆるジョグシューズ)

ただし境目ははっきりしたものではなく、どれにも収まりきらない靴もあります。負担をどこに置きたいかは、この3つのどれを選ぶかで決まります。

データで見る時の注意:ソール厚・ドロップ・重量・プレートの有無で絞り込めます。値が入っていない項目は空欄で表示されます。→ シューズを探す

出典(5本)
  • 出典:Malisoux, L., Ramesh, J., Mann, R., Seil, R., Urhausen, A., Theisen, D.「Can parallel use of different running shoes decrease running-related injury risk?」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 25(1):110-115, 2015(DOI: 10.1111/sms.12154・前向きコホート研究(264名・平均15.5週)。靴の使い方は割り付けではなく参加者の自己選択・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Bonato, M., Marmondi, F., Faelli, E. L., Pedrinelli, C., Ferraris, L., Filipas, L.「Advanced Footwear Technology in Non-Elite Runners: A Survey of Training Practices and Reported Outcomes」Sports (Basel) 12(12):356, 2024(DOI: 10.3390/sports12120356・非エリートランナー61名へのアンケート調査。対照群が無く、自己申告の傷害率は他の集団と比較されていないため当サイトは傷害率の数値を引用していない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Malisoux, L., Delattre, N., Urhausen, A., Theisen, D.「Shoe Cushioning Influences the Running Injury Risk According to Body Mass: A Randomized Controlled Trial Involving 848 Recreational Runners」The American Journal of Sports Medicine 48(2):473-480, 2020(DOI: 10.1177/0363546519892578・848名のランダム化比較試験。ここでの「クッション」は剛性(N/mm)であってソール厚ではない。第2著者はDecathlon SportsLab所属。体重による層別は事後解析・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Rodrigo-Carranza, V., Alda-Blanco, A., Kuzmeski, J., González-Mohíno, F., Agüir Anguita, R., Hoogkamer, W.「Impact of Running Shoe Midsole Properties on Energy Cost of Running: Insights Into Midsole Stiffness and Resilience Properties」International Journal of Sports Physiology and Performance 21(6):708-714, 2026(DOI: 10.1123/ijspp.2025-0475・女性17名。筆頭著者はメーカー(Inditex系)の研究部門所属。著者自身が「反発性だけを変えた比較にはなっていない」と限界を認めている・2026-08-24確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Nigg, B. M., Baltich, J., Hoerzer, S., Enders, H.「Running shoes and running injuries: mythbusting and a proposal for two new paradigms: 'preferred movement path' and 'comfort filter'」British Journal of Sports Medicine 49(20):1290-1294, 2015(DOI: 10.1136/bjsports-2015-095054・総説であって新規データではない。「快適性フィルタ」は提案された枠組みであり、検証された法則ではない・2026-08-24確認) ↑本文に戻る

自分の持ち靴で数えるなら:いま練習で使っている靴を全部書き出して、それぞれのソール厚とプレートの有無を並べてみてください。3つのどこに偏っているかが見えます。

よくある質問

厚底だと捻挫しやすいって本当ですか?
答えられません。厚底シューズで捻挫が増えるかどうかを直接調べた研究は、探した範囲では見つけられなかったためです。研究が測っているのは「足首が内側へ倒れ込む動き」までで、捻挫という怪我そのものを数えたものではありません。代わりに見ていただきたいことが2つあります。ひとつは、厚いソールで内側への倒れ込みが増えるという複数の報告(ただし逆の報告もあり、倒れ込みと怪我の因果は示されていません)。もうひとつは、ソール厚50mmと27mmの間で安定性の指標に差が出なかったという実験です。厚いほど不安定、という単純な関係にはなっていません。
カーボンプレート入りは初心者が履いてもいいですか?
履いてよいかどうかを当サイトは決めません。研究から言えることは2つです。ひとつは、48研究のメタ解析が、走りのラクさの改善は速く走る人ほど、訓練された人ほど大きいと報告していること。裏返せば、ゆっくり走るうちは平均的な利益が小さいということです。もうひとつは、骨傷害の症例報告の著者が、カーボンプレートシューズへゆっくり段階的に移行することを提案していることです。買うなら、レース本番でいきなり下ろさない予定を先に決めてください。
厚底だと足首がぐらつく気がします。安定するモデルはどれですか?
モデルの順位は出せません。安定性にかかわる数値を公表しているメーカーがごく少なく、大半が欠けたまま順位を作ると、公表していない靴がただ順位から消えて、比較として成り立たないためです。代わりに材料を渡します。ソール厚50mm・35mm・27mmを比べた実験では、足首が倒れている時間がいちばん短かったのは真ん中の35mmで、50mmと27mmの間には差がありませんでした。まずは手持ちの靴と候補のソール厚が何ミリ違うかを確かめて、極端に離れた靴をいきなり練習の中心に据えないところから始めるのが現実的です。

まとめ

厚底で怪我が増えるとも減るとも、断定できる研究はまだありません。 論点ごとに、分かっていることを並べます。

  • 衝撃は、通説と逆向きでした。 14研究のレビューでは、荷重率はむしろ厚いソールで下がっています(確実性は低い〜非常に低い)
  • 負担は、量ではなく置き場所が変わります。 厚い靴で足首の仕事が46.6→34.9 Jに減り、膝の仕事が24.4→28.0 Jに増えました
  • 骨の怪我は、両論があって決着していません。 増える側の症例報告は5例で、分母も対照群もなく、減る側の報告もあります
  • いちばん具体的に効くのは、慣らしです。 その5例のうち3例は、ほとんど履いていない靴でレースやロング走に出た状況でした
  • カーボンプレートは、跳ね返すためのものではありませんでした。 足の指の付け根で失われるエネルギーを減らすために入れられたものです

そして、シューログが確認できた範囲——主流ブランドのロード用で、メーカーがソール厚を公表している116足——では、「厚底か薄底か」という二択はすでに成り立っていません。中央値は39mm、いちばん薄いものでも27mmです。この116足を厚さで見ると、次の3つに大別されます。

  • レース規則の上限(40mm)付近まで厚くしたレーシングモデル
  • 40mmを超えるマックスクッションモデル
  • 35mm前後のデイリートレーナー(いわゆるジョグシューズ)

ただし境目ははっきりしたものではありません。数は少ないものの、27〜32mmの軽量スピード系(ライトレーサー6・ターサーRP3・ハイパースピード6など)のように、3類型の外側にいる靴もあります。

シューログでできるのは、その3つを、ソール厚・ドロップ・重量・プレートの有無で見分けることです。答えは渡しません。判断の材料を並べます。


反対側の疑問——薄い側の靴を練習に足すべきか——については、別の記事で研究を並べています。→ マラソン練習に薄底シューズは必要か?

厚底が危ないわけでも、安全なわけでもありません。負担のかかる場所が変わるだけです。新しい一足をいきなり本番で下ろさないこと。あとは数字を見て、自分で決められます。

数値で絞るところから始めるなら → シューズを探す

最後は履いた感覚で決めてください。
数値の役目は、その手前——候補を間違えないこと——までです。

感覚に、根拠を。

公開日 2026-08-24|更新日 2026-10-02

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