マラソン練習に薄底シューズは必要か?
マラソン練習に薄い靴が必要だという根拠は、いまのところ見つかっていません。脚づくりのために選ぶ人もいますが、根拠になっている研究で使われたのは、いわゆるベアフットシューズ——いま主流のブランドが売っていない、極端に薄い靴です。効いているのは薄さではなく軽さで、いま軽い靴の上位を占めているのはむしろ厚底です。
「厚底ばかりの練習でいいのだろうか」——そう思って薄い靴を探し始める人は少なくありません。脚が強くなると聞いた、厚底だと体が安定しない、そもそも自分に合っているのか分からない。
この記事は、すでに厚底シューズを持っていて、マラソン練習用にもう1足どうするか迷っている人に向けて書いています。研究で分かっていること、分かっていないこと、そしてシューログのデータで確かめられることを分けて並べます。
「薄底」とは何ミリのことか — 決まりは無い
「ここから先が薄底」という線引きは、決まっていません。
世界11か国の専門家42人が4回の質問票をやりとりして作った基準はあります。重さ・ソール厚(スタックハイト)・かかとと前足部の高低差・靴の曲がりやすさ・支える構造の有無——この5つを見る、というところまでは95%の合意ができています。
5つ目の「支える構造」は、足の動きを抑えるために靴に組み込まれた仕組みのことです。論文が挙げている例は、硬さの違う素材を重ねたミッドソールと硬いかかとのカップ(モーションコントロール機構)、そして土踏まずの下を持ち上げたインソールと内側を締め上げたアッパー(アーチサポート機構)です。こうした仕組みが無いほど薄底寄りと数えます。
ただし、この42人の基準そのものは、「ここから先が薄底」という線引きをあえて設けていません。5つの要素で靴を測ることには合意した——でも「何点からが薄底か」は決めなかった、ということです。5つを等しく扱うと「軽いがソールの厚い靴」と「重いがソールの薄い靴」が同じ点数になってしまうこと、そしてどの要素をどれだけ重く見るべきかを言えるだけの研究がまだ無いことが理由として挙げられています。
いっぽうで、別の研究者らは具体的な線を提案しています。重量200g以下・かかとのソール厚20mm以下・高低差7mm以下、というものです。ただしこちらは専門家の合意ではなく、レビュー論文での提案です。
つまり、「薄底とは何か」は、いまも決着していません。専門家が集まると線を引かず、研究者が整理すると線が引ける——その食い違いがそのまま残っています。
決まりが無いなら、いま売られている靴の実数で見るしかありません。
2026年9月6日現在、シューログが扱う113足のうち、メーカー公表のソール厚を確認できたのは62足です。その分布はこうなっています。
| ソール厚(かかと) | 足数 |
|---|---|
| 25mm未満 | 0足 |
| 25〜35mm未満 | 6足 |
| 35〜40mm | 43足(69%) |
| 40mm超 | 13足 |
中央値は39.3mmでした。確認できた範囲で最も薄いのは27mm——アシックスのライトレーサー6です。
先ほどの「かかと20mm以下」という提案に当てはまる靴は、1足もありません。研究で「ミニマリストシューズ」と呼ばれる靴は、いま主流のブランドのラインナップにはほぼ存在しない、ということです。
なお、この「ミニマリストシューズ」は、店頭や口コミではベアフットシューズと呼ばれることもあります。この記事では、読みやすさのため以降「ベアフットシューズ」と書きます(研究の用語は「ミニマリストシューズ」です)。
また、かかとと前足部の高低差(ドロップ)は、「薄さ」とは別の軸です。ゼロドロップシューズ(高低差が無い靴)の話は、この記事では扱いません。
だから読者が「薄底」と言うとき、それは厚底が主流になった市場の中で、相対的に薄い側を指しているはずです。この記事もその意味で使います。目安としては、いまの中心が35〜40mm。30mm台の前半なら薄い側、というあたりです。
出典(2本)
- 出典:Esculier, J.F., Dubois, B., Dionne, C.E., Leblond, J., Roy, J.S.「A consensus definition and rating scale for minimalist shoes」Journal of Foot and Ankle Research 8:42, 2015(DOI: 10.1186/s13047-015-0094-5・11か国の専門家42名による修正デルファイ法。著者自身が「現時点ではミニマリストか否かを二分するカットオフ値は決められない」と明記している・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Coetzee, D.R., Albertus, Y., Tam, N., Tucker, R.「Conceptualizing minimalist footwear: an objective definition」Journal of Sports Sciences 36(8):949-954, 2018(DOI: 10.1080/02640414.2017.1346816・レビュー論文による提案であって専門家合意ではない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
データで見る時の注意:シューログではソール厚を実数で見られます。ただし確認できているのは113足中62足で(2026年9月6日現在)、残りはメーカーが公表していないため空欄です。→ ランニングシューズの数値の読み方
自分の一足を調べるなら:いま履いている靴のかかとのソール厚が何ミリか、メーカーの製品ページで確かめてみてください。「厚底/薄底」というラベルより、その数字のほうが比較に使えます。
薄いと速くなるのか — 効いているのは薄さではなく軽さ
薄い靴で速くなったという報告はあります。ただしその差は「薄いから」ではなく「軽いから」でほぼ説明がつきます。
この節で出てくるランニングエコノミーは、同じ速さで走るのに使う酸素の少なさ——いわば「走りのラクさ」のことです。良くなるほど、同じペースを少ないエネルギーで維持できます。
まず、報告は割れています。
| 研究 | 対象と期間 | 結果 |
|---|---|---|
| ランダム化比較試験 | 男性32名・8週間 | ランニングエコノミーは改善したが、統計的に有意ではなかった |
| 前後比較(対照群なし) | 男性15名・4週間慣らし | ベアフットシューズで 6.9% 良くなった(有意) |
| 被験者内比較 | 男性8名・裸足 | 裸足で 4.4% 良くなった(有意) |
| 400mトラックでの実走 | 初心者24名・解析17名 | ベアフットシューズで酸素消費量が 2.5% 少なかった(有意) |
※ランダム化比較試験=参加者をくじ引きのように分けて比べる方法です。思い込みや偏りが入りにくく、確かめ方としては最も強い形とされています。
「差は出ていない」と言い切ることはできません。4つのうち3つで差が出ています。とくに最後の1本は日本の研究で、女性15名を含む初心者ランナーが実際のトラックを走ったもので、この記事を読んでいる人の条件にいちばん近い研究です。
ではなぜ「薄さのおかげ」と言えないのか
裸足の研究で、その理由が示されています。ランニングエコノミーが良くなった度合いは、取り除いた靴の重さでほぼ説明がついた(決定係数 r²=0.80)というものです。つまり効いていたのは「薄い」ことではなく「軽い」ことでした。
同じ方向の報告は他にもあります。19の研究を集めたレビューでは、そのうち14研究をまとめた解析で靴が軽いほどランニングエコノミーが良いという関係が示され、別の実験では1足あたり100g重くなると3000mのタイムが0.78%落ちると報告されています。
軽さで選ぶと、出てくるのは厚底のレース用シューズです
ここでシューログのデータを見ると、「薄い靴=軽い靴」という通説どおりにはなっていません。
2026年9月6日現在、重量とソール厚の両方が分かっているのは58足です。ただし重量は、何センチのサイズで量った値かをメーカーが公表している靴と、していない靴があります。基準がそろっていないため厳密な順位ではない、という注意つきで、58足の公表値を小さい順に並べます。上位5足はこうなります。
| 重量 | 量ったサイズ | ソール厚(かかと) |
|---|---|---|
| 129g | 非公表 | 29mm |
| 170g | 27.0cm | 40mm |
| 195g | 27.0cm | 40mm |
| 196g | 27.0cm | 37.5mm |
| 198g | 27.5cm | 40mm |
いちばん小さい数字は129g——アシックスのメタスリーク(ソール厚29mm)でした。ただし量ったサイズが非公表なので、他の靴と同じ土俵の数字かは分かりません。量ったサイズが公表されている靴に限ると、軽い順の上位5足はすべて37.5mm以上の厚底です。レース用のカーボンプレート入りシューズが並びます。同じ範囲のうち薄い側(30〜36mm)にあたるのは練習用のデイリートレーナーで、225〜299gです。
ただし、これは「厚いほうが軽い」という性質の話ではありません。そもそも主流の靴はほぼ厚底で(35mm未満は58足中5足)、軽さを突き詰めたカーボンプレート入りのレース用シューズも厚底で作られています。一方で、27〜32mmの薄い側にも200g前後の軽量スピード系(ライトレーサー6・ハイパースピード6など)が少数残っています——市場がそういう構成になっている、ということです。
だから言えるのは、軽さを求めて薄い靴を探さなければならない理由は、いまの市場には無いということです。軽さがほしければ、レース用の厚底がその答えになっています。
出典(6本)
- 出典:Lindlein, K., Zech, A., Zoch, A., Braumann, K.M., Hollander, K.「Improving Running Economy by Transitioning to Minimalist Footwear: A Randomised Controlled Trial」Journal of Science and Medicine in Sport 21(12):1298-1303, 2018(DOI: 10.1016/j.jsams.2018.05.012・男性32名・8週間のRCT。ランニングエコノミーの改善は統計学的に有意ではない(p>0.05)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Warne, J.P., Warrington, G.D.「Four-week habituation to simulated barefoot running improves running economy when compared with shod running」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 24(3):563-568, 2014(DOI: 10.1111/sms.12032・男性15名・対照群のない前後比較・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Reeves, K.A., Corbett, J., Barwood, M.J.「Barefoot running improves economy at high intensities and peak treadmill velocity」The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 55(10):1107-1113, 2015(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 24998616)を示す/男性8名・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:山内武, 長谷川裕「ミニマルシューズはランニングエコノミーを高める」ランニング学研究 25(1):66-67, 2014(DOI: 10.57497/running.25.1_66・学会大会一般研究発表抄録(2ページ)。解析対象は17名。シューズの質量が統制されていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Fuller, J.T., Bellenger, C.R., Thewlis, D., Tsiros, M.D., Buckley, J.D.「The Effect of Footwear on Running Performance and Running Economy in Distance Runners」Sports Medicine 45(3):411-422, 2015(DOI: 10.1007/s40279-014-0283-6・19研究のシステマティックレビューと14研究のメタ解析(2014年4月まで)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Hoogkamer, W., Kipp, S., Spiering, B.A., Kram, R.「Altered Running Economy Directly Translates to Altered Distance-Running Performance」Medicine & Science in Sports & Exercise 48(11):2175-2180, 2016(DOI: 10.1249/MSS.0000000000001012・男性18名・3000mタイムトライアル・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
自分の一足で確かめるなら:いま履いている靴の重量を書き出して、候補と何グラム違うか並べてみてください。100gの差がどのくらいの意味を持つかは、上の数字が目安になります。
疲れるのも、強くなるのも、壊れるのも — 負担の場所が移るから
薄い靴に替えると、体にかかる負担の「量」ではなく「場所」が変わります。 疲れることも、脚が強くなることも、壊れることも、根は同じです。
負担は膝から足首へ移る
3種類の厚さの靴で走り比べた研究があります。前足部・中足部から接地するランナー11名を分析したもので、結果はこうでした。
- 薄い靴では、足関節の仕事が増える(膝から足首へ移る)
- 厚い靴では、足関節の仕事が減り、膝の仕事が増える(足首から膝へ移る)
研究者たちはこれを「再配分」と表現しています。どちらが優れているかという話ではなく、どこに負担を置くかが変わる、ということです。
同じ構造の話は接地のしかたでも報告されています。前足部から接地すると膝の関節にかかる圧力は下がりますが、アキレス腱にかかる力は上がります(5.1→6.3 体重分)。日本の研究でも、前足部・中足部から接地したときのアキレス腱の張力は、かかとから接地したときより有意に高かったと報告されています(成人男性8名・裸足での測定)。
薄い靴に替えた人が「翌日の疲れが違う」と感じるのは、慣れていない場所に負担が移るからだと考えると筋が通ります。ただしこの「疲れ」そのものを測った研究を、当サイトは探していません。ここは負担の移り方から推測しているだけで、裏づけはありません。
足は強くなる。ただし「どこが」は限定的
※ここからは言葉を使い分けます。足首から下が「足」、ふくらはぎや太ももを含む下半身が「脚」です。
10週間かけてベアフットシューズへ移行させた研究では、足の親指の付け根の筋肉(母趾外転筋)の断面積が10.6%増えました(対照群との比較で p=0.01)。ただしそれ以外の筋肉には有意な変化がありませんでした。
ランナーのあいだでよく言われる「薄い靴を履くと足裏が鍛えられる」という話は、この足の中にある筋肉(足内在筋)の変化を指しているのだと読めます。そう読むなら、ベアフットシューズについては実測があることになります。ただし増えたのは母趾外転筋だけでした。
6ヶ月の移行プログラムを行った別の研究では、下腿と足部の筋肉の容積が増え、増加は前足部の筋肉が中心でした。
ここで2つ、押さえておくことがあります。
1つは、研究で使われた靴が、いま売られている靴とは別物だということです。 10週間の研究が使ったのは Vibram FiveFingers——足の指が5本に分かれた、いわゆるベアフットシューズです。主流ブランドが売っているランニングシューズとは、別のカテゴリの製品になります。6ヶ月の研究のほうは、論文の要約に靴の名前が書かれていないので、どんな靴だったのかは分かりません。こちらも「ミニマリストシューズ」への移行として行われたものです。第1節で見たとおり、シューログが扱う100足以上の中で最も薄いものでも27mm(アシックスのライトレーサー6)でした。その27mmや30mm台前半の靴に替えて同じことが起きるかは、誰も調べていません。
もう1つは、ふくらはぎの筋力は変わらなかったということです。 61人を6週間追ったランダム化比較試験では、5kmのタイムは少し速くなったものの、足首を伸ばす筋力は3つの測り方すべてで変わりませんでした。12週間の別の試験でも、最大筋力も筋肉の厚さも変わっていません。
「ベアフットシューズで足が強くなる」という言い方をよく見かけますが、研究で確かめられているのは、極端に薄い靴で、足の中の一部の筋肉が増えたところまでです。
同じ研究で、骨に変化が出た人もいます
先ほどの母趾外転筋が増えた10週間の研究では、ベアフットシューズに移った18人のうち8人の足の骨に、MRIでしか見えない変化が現れました。従来の靴で走った19人では1人です。
骨に負担がかかると、骨の内部に水分がたまることがあります(骨髄浮腫)。外からは見えず、痛みが出るとは限りません。しかし骨が負担を受けているサインではあります。
この「変化」は、疲労骨折とは違います。 同じ研究グループが別の研究で使っている0〜4の重症度の目盛りでは、疲労骨折に相当するのはいちばん重い「4」だけです。画像に写った変化であって、症状が出たかどうかとは別の話です。
そして重要なのは、変化が出たのが誰だったかです。この研究では、浮腫が見つかった人(主に女性)は、測定したすべての筋肉のサイズが元々小さかったと報告されています。ただしこれは事後の観察で、人数も少ないものです。
つまり同じ刺激が、鍛える方向にも壊す方向にも働いているということになります。
そして、怪我そのものを追いかけた研究もあります。 140人を12ヶ月追ったランダム化比較試験では、ベアフットシューズを渡されたグループの怪我の発生率は、対照のグループと変わりませんでした(3通りの解析すべてで差なし)。研究者たちは「一般に信じられていることに反して、ベアフットシューズも柔らかい走り方も、怪我の全体的な発生率を下げなかった」と書いています。
減らしもしなかったが、増やしもしなかった、ということです。
走らずに鍛える方法があります
8週間の研究で、ベアフットシューズで「歩く」だけのグループが、足部の強化エクササイズを行ったグループと同等に、筋肉のサイズと筋力を増やしました(57名・3群比較)。走行距離は全グループが維持したうえでの結果です。
足を鍛えるだけなら、走らなくてもできるということです。ただしこの研究は筋肉しか測っておらず、歩いたときに骨がどうなるかまでは分かりません。
増えかたは、6ヶ月あたりで頭打ちになります
6ヶ月間ベアフットシューズで過ごした研究では、足の筋力が57.4%増えました。ただし同じ研究で、平均2.5年ベアフットシューズを履いてきた人たちと、6ヶ月のプログラムを終えたばかりの人たちで、筋力が同じくらいでした。研究者たちは「6ヶ月を超えてもさらに増えていく」という自分たちの見込みを取り下げると書いています。
ただしこの研究の参加者は、その靴で走らないよう指示されていました。日常生活で履いた研究であって、走った研究ではありません。
慣らしにどれくらいかけるか
ゼロドロップシューズ(かかとと前足部の高低差が無い靴)のメーカーの案内の中には、10日ほどで移行できると書かれているものもあります。高低差の話であって薄さそのものではありませんが、履物を大きく変えるという点では同じです。いっぽう研究で使われた期間は、8週間、12週間以上といったものでした。10週間かけて移行させた上の研究でも、18人中8人に骨の変化が出ています。
急ぐほど得るものが増えるわけではない、というのが研究側から言えることです。
出典(12本)
- 出典:Miyazaki, T., Aimi, T., Nakamura, Y.「Redistribution of knee and ankle joint work with different midsole thicknesses in non-rearfoot strikers during running: a cross-sectional study」Acta of Bioengineering and Biomechanics 25(1):79-90, 2023(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 38314579)を示す/前足部・中足部接地のランナー11名・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Kulmala, J.P., Avela, J., Pasanen, K., Parkkari, J.「Forefoot Strikers Exhibit Lower Running-Induced Knee Loading than Rearfoot Strikers」Medicine & Science in Sports & Exercise 45(12):2306-2313, 2013(DOI: 10.1249/MSS.0b013e31829efcf7・女性38名を習慣的な接地パターンで分けた横断的な比較。接地を変えたらどうなるかは示しておらず、傷害そのものも測っていない(負荷の推定値)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:西口ほのか, 高林知也, 菊元孝則, 久保雅義「ランニング時の足部接地パターンの違いがアキレス腱張力に与える影響」ランニング学研究 35(1):43, 2023(DOI: 10.57497/running.35.1_43・学会大会一般研究発表抄録。成人男性8名・裸足での測定・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Johnson, A.W., Myrer, J.W., Mitchell, U.H., Hunter, I., Ridge, S.T.「The Effects of a Transition to Minimalist Shoe Running on Intrinsic Foot Muscle Size」International Journal of Sports Medicine 37(2):154-158, 2016(DOI: 10.1055/s-0035-1559685・オンライン先行公開2015-10-28・誌面は2016年2月号。10週間・37名(ベアフットシューズ群18名/対照19名)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Chen, T.L.W., Sze, L.K., Davis, I.S., Cheung, R.T.「Effects of training in minimalist shoes on the intrinsic and extrinsic foot muscle volume」Clinical Biomechanics 36:8-13, 2016(DOI: 10.1016/j.clinbiomech.2016.05.010・6ヶ月の移行プログラム(介入20名・対照18名)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Fuller, J.T., Thewlis, D., Tsiros, M.D., Brown, N.A.T., Buckley, J.D.「Six-week transition to minimalist shoes improves running economy and time-trial performance」Journal of Science and Medicine in Sport 20(12):1117-1122, 2017(DOI: 10.1016/j.jsams.2017.04.013・61名・6週間のRCT。5kmタイムは改善したが、足関節底屈筋力は3つの測定法すべてで変化しなかった・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Zhang, C., Deng, L., Zhang, X., Wu, K., Zhan, J., Fu, W., Jin, J.「Effects of 12-week gait retraining on plantar flexion torque, architecture, and behavior of the medial gastrocnemius in vivo」Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 12:1352334, 2024(DOI: 10.3389/fbioe.2024.1352334・12週間の薄底+前足部接地への移行。最大筋力も筋の厚さも変化しなかった・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Ridge, S.T., Johnson, A.W., Mitchell, U.H., Hunter, I., Robinson, E., Rich, B.S.E., Brown, S.D.「Foot Bone Marrow Edema after a 10-wk Transition to Minimalist Running Shoes」Medicine & Science in Sports & Exercise 45(7):1363-1368, 2013(DOI: 10.1249/MSS.0b013e3182874769・骨髄浮腫の0〜4の重症度スケール(4のみが疲労骨折に相当)の出典。Johnson 2016とは別論文で、本文では両者の数値を混ぜていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Abran, G., Schwartz, C., Dardenne, N., Delvaux, F., Croisier, J.L.「Minimalist Footwear and Softer Running Technique Alter Injury Location but Not Incidence in Recreational Endurance Runners」The American Journal of Sports Medicine 54(1):109-117, 2026(DOI: 10.1177/03635465251392242・140名・12ヶ月のRCT(ClinicalTrials.gov NCT05499871)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Ridge, S.T., Olsen, M.T., Bruening, D.A., Jurgensmeier, K., Griffin, D., Davis, I.S., Johnson, A.W.「Walking in Minimalist Shoes Is Effective for Strengthening Foot Muscles」Medicine & Science in Sports & Exercise 51(1):104-113, 2019(DOI: 10.1249/MSS.0000000000001751・8週間・57名の3群比較。筋のサイズと筋力だけを測っており、骨は測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Curtis, R., Willems, C., Paoletti, P., D'Août, K.「Daily activity in minimal footwear increases foot strength」Scientific Reports 11:18648, 2021(DOI: 10.1038/s41598-021-98070-0・参加者はこの靴で走らないよう指示されており、日常生活での着用を調べた研究(走行の研究ではない)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:ALTRA(アルトラ)日本公式「アルトラで自然な走りを身につける」ALTRA Japan 公式サイト(altrafootwear.jp), 2026(売り手側の案内。移行の目安として「これを10日間ほど続ければ問題なく、ゼロドロップのシューズで長距離を走れるようになります」と記載。研究側で使われた期間(8〜12週以上)と1桁違う・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
自分の一足で試すなら:もし薄い側の靴を足すなら、いきなり走らず、まず歩く時間から始めてメモを取ってみてください。何週目に何をしたかを残しておくと、違和感が出たときに戻る場所が分かります。
使い分けに意味はあるか — ある。ただし薄底かどうかは別の話
何足かを交互に履いている人のほうが、故障が少なかったという報告があります。ただし「その1足が薄底である必要」は、どの研究も示していません。
市民ランナー264人を追跡した調査があります。この人たちは走った内容と故障を専用のサイトに毎回記録し、平均15.5週間追跡されました。期間中に3分の1にあたる87人が、少なくとも1回の故障を経験しています。
その分析で、複数のシューズを並行して使っていた人の故障リスクは、そうでない人の約6割にとどまりました(ハザード比0.614、95%信頼区間0.389〜0.969)。他のスポーツもしている人のリスクも低く出ています。
ただし、ここから先は言えないという線が3つあります。
1つ目。これは観察であって、因果ではありません。 靴を何足も持てる人は、経済的な余裕や走歴や意識の高さが違う可能性があります。実際この研究でも、複数使用者は平均で4歳年上(44.2歳と40.5歳)で走歴も長く、走る量も多いという差がありました。そして年齢は分析の調整項目に入っていません。
2つ目。この研究の「複数」は、思っているより緩い定義です。 記録上「別の靴」と数えられるのは、ブランド・モデル・バージョンのいずれかが違えばよいという基準でした。つまり同じモデルの新旧を交互に履いていた人も「複数シューズ使用者」に入っています。
3つ目。厚底と薄底の組み合わせは、検証されていません。 これはこちらの推測ではなく、研究者たち自身が論文に書いていることです——リスクの低下が「ミッドソールの密度・構造・形状といった靴の特性の交代に帰属できるかは、これらの結果からは判定できない」。スタックやドロップやクッションは、そもそも測られていません。
加えて、この研究は必要とされた人数(360人)に届いておらず、信頼区間の上限0.969は1にかなり近い位置にあります。「使い分ければ故障が減る」と読むには弱い、という程度に受け取るのが妥当です。
なお資金はルクセンブルクの国立研究基金で、シューズメーカーではありません。
つまり言えるのはここまでです。1足を履き潰すのではなく何足かを回すこと自体には、弱いながら裏づけがある。ただしその1足を薄底にすべきかどうかは、まだ誰も確かめていない。
出典(1本)
- 出典:Malisoux, L., Ramesh, J., Mann, R., Seil, R., Urhausen, A., Theisen, D.「Can parallel use of different running shoes decrease running-related injury risk?」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 25(1):110-115, 2015(DOI: 10.1111/sms.12154・前向きコホート研究(264名・平均15.5週)。靴の使い方は割り付けではなく参加者の自己選択・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
データで見る時の注意:ローテーションの考え方は、シューズの寿命の記事でも扱っています。→ シューズの替え時
自分の持ち靴で数えるなら:いま練習で使っている靴が何足あるか、そして何が違うか(重さ・ソール厚・用途)を書き出してみてください。「薄いのを足す」より先に、いま何と何を回しているかが見えます。
靴で速くなれるのは2〜4%程度 — 残りの差はどこで生まれるか
長い距離を速く走れるかどうかは3つの要素の掛け算で決まる、というのが定説です。そしてその3つを論じた総説に、「靴」という語は一度も出てきません。
持久系の走りを決めるのは、①最大酸素摂取量(VO2max=どれだけ酸素を取り込めるか) ②乳酸性作業閾値(LT=きつくなり始めるペースの高さ) ③ランニングエコノミー(同じ速さで走るのに使う酸素の少なさ=走りのラクさ)。この3つだとされています。しかも足し算ではなく掛け算の関係で、どれか1つが欠けると成り立ちません。
この総説で③にぶら下がる要素として挙げられているのは、遅筋線維の割合と、体格や腱の弾性の2つだけです。用具の項目はありません。
これは「靴は関係ない」という意味ではありません。2008年に書かれた、エリート選手の生理学を論じた総説であり、そもそも用具を扱っていないというだけです。
変えられる幅が、まったく違います。
別の総説によると、最大酸素摂取量が同じくらいのランナー同士でも、ランニングエコノミーは最大30%も違うと報告されています。そしてその違いは走り方・体つき・筋肉の使い方などの積み重ねで決まり、その多くはトレーニングで変えられるとされています。
いっぽう靴で変わる幅はどうか。厚底カーボンシューズの研究では、4.16%・4.01%(男性18名・靴の重さを揃えた比較)、2.6〜4.2%(男女24名)といった数字が出ています。
ちなみに、厚底ブームの火付け役になった「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」(2017年7月発売)の「4%」は、この数字のことです。ナイキは「ナイキ ストリーク 6との比較試験に基づき、ランニング効率を平均4%高めることを目標とし、「4%」がプロダクト名に用いられています」と説明しています。上の4.16%を報告した研究で使われたのも、この靴の試作品でした。
ただし、「タイムが4%縮む」という意味ではありません。同じ速さで走るときに使うエネルギーの話で、比べた相手はナイキ自身の別のモデルです。
つまり、「最大30%」と「2〜4%」の差です。しかも靴側の数字には条件がつきます。
- 4%の研究はシューズメーカーからの資金提供を受けたものです
- 個人差が大きく、改善しなかった人が実在します。男女24名の研究では、わずかに悪くなった人(+0.50%)がいました。48本の研究をまとめて統計的に解析したもの(メタアナリシス)では、個人差の幅は「9.6%の悪化から9.7%の改善まで」と報告されています
- そのメタアナリシスをまとめた研究者たち自身が、もとになった研究の確かさは低いと評価しています。少人数を実験室で一度きり測った研究が多く、そこから導いた結論は今後の研究でくつがえりうる、という意味です
靴で得られるのは数%の上乗せで、練習のように積み上がっていくものではありません。しかも上乗せされるのは③のランニングエコノミーだけで、①最大酸素摂取量と②乳酸性作業閾値が靴で変わるという報告は、見当たりません。
出典(6本)
- 出典:Joyner, M.J., Coyle, E.F.「Endurance exercise performance: the physiology of champions」The Journal of Physiology 586(1):35-44, 2008(DOI: 10.1113/jphysiol.2007.143834・2008年の総説。用具(シューズ)は主題として扱っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Barnes, K.R., Kilding, A.E.「Running economy: measurement, norms, and determining factors」Sports Medicine - Open 1(1):8, 2015(DOI: 10.1186/s40798-015-0007-y・総説・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Hoogkamer, W., Kipp, S., Frank, J.H., Farina, E.M., Luo, G., Kram, R.「A Comparison of the Energetic Cost of Running in Marathon Racing Shoes」Sports Medicine 48(4):1009-1019, 2018(DOI: 10.1007/s40279-017-0811-2・オンライン先行公開2017-11-16/同誌に訂正記事あり(doi:10.1007/s40279-017-0840-x)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Barnes, K.R., Kilding, A.E.「A Randomized Crossover Study Investigating the Running Economy of Highly-Trained Male and Female Distance Runners in Marathon Racing Shoes versus Track Spikes」Sports Medicine 49(2):331-342, 2019(DOI: 10.1007/s40279-018-1012-3・男女24名。個人差が大きく、わずかに悪化した参加者(+0.50%)が論文の要約に明記されている・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:ナイキジャパン「スピードを求めるランナーの常識を打ちやぶる ナイキのランニングシューズ「ナイキ ズーム シリーズ」に新色登場」ナイキジャパン公式プレスリリース(nike.jp), 2017(2017年9月20日付。「4%」の由来をメーカー自身が説明した一次資料・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Stephen, C.H.N., Kelly, L.A., Schuster, R.W., Diamond, L.E.「The effects of running shoe longitudinal bending stiffness and midsole energy return on oxygen consumption and ankle mechanics and energetics: A systematic review and meta-analysis」Journal of Sport and Health Science 14:101069, 2025(DOI: 10.1016/j.jshs.2025.101069・48研究・n=878のメタ解析。著者自身がエビデンスの質を low / very low と評価している・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
自分の練習で見直すなら:靴を替える前に、いまの週の走行時間と、きついペースで走っている時間の配分をメモしてみてください。変えられる幅が大きいのは、そちらです。
結局どれを選べばいいか(初心者はどうするか)
「薄底が必要だ」という根拠は、いまのところ見つかっていません。それでももう1足足すなら、薄さではなく重さで選ぶほうが、研究の裏づけがあります。
走り始めて間もない人は、急がなくて大丈夫です
初心者11名と経験者11名を同じ条件で走らせた実験があります。そこでは、シューズや接地のしかたによらず、膝の関節にかかる力とアキレス腱にかかる力は、経験者より初心者のほうが有意に大きいという結果が出ています。
さらに同じ実験で、かかとから接地する場合、着地の衝撃の立ち上がりは従来型シューズのほうがベアフットシューズより有意にゆるやかでした。
つまり初心者はもともと負担が大きく、そこに薄い靴を足すと負担が重なる、ということになります。前の節で見た「骨に変化が出たのは、元々筋肉が小さかった人」という所見と合わせると、弱い状態で急ぐほど壊れやすいという一貫した話になります。
「初心者は履くな」ではありません。急ぐ理由が無い、ということです。
選ぶなら、薄さより重さで
第2節で見たとおり、薄い靴の利点は軽さでほぼ説明がつきます。そして市場を見ると、軽い靴の上位を占めているのはむしろ厚底でした。
シューログでソール厚を確認できているのは、扱っている113足のうち62足です(2026年9月6日現在)。残りはメーカーが公表していないため空欄です。だから、「薄い順ランキング」は作りません。半分が欠けた表を順位のように見せると、欠けていることが見えなくなるからです。
いっぽう重量は105足で確認できています。軽さで絞るなら、こちらのほうが使えます。
データで見る時の注意:重さ・ソール厚・ドロップの数値で絞り込めます。値が入っていない項目は空欄で表示されます。→ シューズを探す
薄い靴を選ぶなら、慣らしに時間をかける
履き替えていく期間について、研究で使われた数字を挙げておきます。
- ある試験では、新しい靴で走る距離を、週あたりの走行距離の5%ずつ増やしていくという配分が使われました(8週間)
- 移行のリスクをまとめた解析では、12週間以上の段階的なプログラムが勧められています
どちらも「この期間なら安全」と検証された数字ではありません。実際に使われた配分と研究者たちの推奨です。前の節で見たとおり、10週間かけて移行した研究でも18人中8人に骨の変化が出ています。
出典(2本)
- 出典:Li, Y., Nie, Y., Zhang, X., Gu, Y.「Effects of footwear and foot strike patterns on patellofemoral joint and Achilles tendon loading in novice runners and experienced runners」Frontiers in Sports and Active Living 7:1610514, 2025(DOI: 10.3389/fspor.2025.1610514・初心者11名・経験者11名(いずれも男性・リアフット接地者)。急性のクロスオーバーで傷害は追跡していない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Río, E.S., Galán-Arriero, I., Palomo-Fernández, I., Marcos-Tejedor, F., Martín-Casado, L.「Injury risk associated with the transition to minimalist footwear in runners: A systematic review and meta-analysis」Gait & Posture 131:110614, 2026(DOI: 10.1016/j.gaitpost.2026.110614・2026年8月10日オンライン先行公開(Crossrefの誌面号は2027年1月付)。効果量は何の指標か抄録から特定できないため本文では引いていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
自分の予定に置き換えるなら:買うと決めたら、最初の1か月にどれだけ履くかを先に決めて書いておいてください。決めずに始めると、たいてい増やしすぎます。
まだ分かっていないこと
読者からよく出る疑問のうち、研究がまだ答えていないものが3つあります。 答えが無いことを知っておくのも、判断の材料になります。
ワラーチや薄いサンダルで走ること
ワラーチ(ソールに紐を通しただけの、サンダル型の履物)や、いわゆる台湾サンダルで走る人がいます。それで走ったときに体に何が起きるかを調べた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。 2つの論文データベースと日本語の文献データベースで7通りの検索語を試しましたが、出てきたのはすべて別分野の研究でした。ただし有料の医学文献データベースや履物専門誌の目次までは当たっていないので、「存在しない」とは言えません。
最も近い研究が1件あります。メキシコのタラウマラ族35人と、市販の薄いサンダルを履いた米国人30人を比べたものです。結果は直感に反しています。どちらのグループも、サンダルを履いたときのほうが裸足のときより、着地の衝撃のピークが大きくなりました。 研究者たちは「人は裸足で歩くときのほうが、薄い履物で歩くときよりもそっと着地する」と結論しています。
ただしこれは歩いたときの研究で、走ったときの話ではありません。怪我が起きたかどうかも測っていません。
なお「台湾サンダル」については、誤解があるようです。日本語圏でこう呼ばれているサンダルの代表格は台湾の母子鱷魚(B&M)というブランドですが、同社の公式サイトはこの製品を「薄い」「裸足に近い」とは謳っていません。掲げているのは「エアクッション・サポート技術」「アーチサポート」「衝撃吸収」で、カーボンプレート入りのシューズも販売しています(2026年8月時点)。ベアフット系のブランドが「避けるべき」としている要素そのものです。
「台湾サンダル=ベアフットの仲間」というのは、日本側での受け取り方であって、メーカーの立場ではありません。
厚底シューズが自分に合わない理由
「厚底だと体が安定しない」という声はよく聞きます。これについては、部分的に測った研究があります。
ソール厚が50mm・35mm・27mmの3足で走り比べた実験では、50mmで股関節の安定性の指標が低くなり、体の重心の上下動はソールが厚いほど大きくなりました。
ただし「厚いほど不安定」という単純な関係ではありません。 3足を総当たりで比べたところ、足首が内側に倒れている時間に差が出たのは、50mmと35mmの間、そして35mmと27mmの間でした。いっぽう50mmと27mmの間には差がありません。倒れている時間がいちばん短かったのは、真ん中の35mmです。
さらにこの研究はアディダス社から資金と物品の提供を受けており、参加者は男性17名のみ、測定はトレッドミル上の2つの速度だけです。人によるばらつきも極端に大きく、怪我も関節への負担も測っていません。
つまり、「合わないと感じる人がいる」ことの説明としては足りていません。なぜ人によって合わないのかは、まだ分かっていないと考えてください。
「厚底ばかり履くと脚が弱くなる」のか
これを直接調べた研究は、探した範囲(2つの論文データベースと日本語の文献データベース)では見つかりませんでした。
近いものとして、厚いクッションの靴で走ったときにお尻の横の筋肉とすねの外側の筋肉の活動が、むしろ増えたという報告があります。「厚底を履いていると脚が楽をする」という前提は、少なくとも実験室で測った範囲では確かめられていません。
いつ薄底を「卒業」すればいいか
「1年履いて脚がついた気がする。もう薄底じゃなくてもいいのでは」という疑問です。これも3つに分けると、答えが分かれます。
やめたら元に戻るのか——靴でこれを調べた研究は見つかりませんでした。 足の運動をやめたときの研究はありますが、維持されたという報告と元に戻ったという報告があり、結論が割れています。
増え続けるのか——6ヶ月あたりで頭打ちになるという報告があります。6ヶ月のプログラムを終えたばかりの人たちと、平均2.5年ベアフットシューズを履いてきた人たちで筋力が同じくらいで、研究者たちは「6ヶ月を超えてもさらに増えていく」という自分たちの見込みを取り下げると書いています。
いつ「移行完了」なのか——移行についてのシステマティックレビューが、いつ移行が完了したのかを判定する方法は無く、現在の文献から明確なタイムラインは引けないと書いています。答えが無いこと自体が、いまの結論です。
出典(8本)
- 出典:Wallace, I.J., Koch, E., Holowka, N.B., Lieberman, D.E.「Heel impact forces during barefoot versus minimally shod walking among Tarahumara subsistence farmers and urban Americans」Royal Society Open Science 5(3):180044, 2018(DOI: 10.1098/rsos.180044・歩行の研究であって走行ではない。傷害は測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:母子鱷魚(B&M・龍峰開發有限公司)「母子鱷魚 |氣墊拖鞋・跑步拖鞋・輕量舒適・台灣永續品牌」母子鱷魚 公式サイト(2bm.com.tw), 2026(台湾サンダルの代表的ブランドの公式サイト。2026-08-22時点で「足弓支撐(アーチサポート)」「避震(衝撃吸収)」「碳板鞋(カーボンプレート靴)」をカテゴリとして掲げている・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Kettner, C., Stetter, B., Stein, T.「The effects of running shoe stack height on running style and stability during level running at different running speeds」Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 13:1526752, 2025(DOI: 10.3389/fbioe.2025.1526752・男性17名・トレッドミル。資金欄に Adidas AG からの資金・物品提供が明記されている(利益相反欄の記述とは食い違う)。傷害も関節負荷も測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Becker, J., Borgia, B.「Kinematics and muscle activity when running in partial minimalist, traditional, and maximalist shoes」Journal of Electromyography and Kinesiology 50:102379, 2020(DOI: 10.1016/j.jelekin.2019.102379・実験室での急性比較。長期に脚が弱くなるかを調べた研究ではない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Tourillon, R., Fourchet, F., Edouard, P., Morin, J.B.「Effects of a forefoot strengthening protocol on explosive tasks performance and propulsion kinetics in athletes: a single-blind randomized controlled trial」PLOS One 20(6):e0313979, 2025(DOI: 10.1371/journal.pone.0313979・靴ではなく前足部の筋力トレーニングの研究。中止後4週間でも効果が維持された側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Arima, S., Maeda, N., Oda, S., Tamura, Y., Komiya, M., Tashiro, T., Urabe, Y.「Selective Strength Training Changes the Morphology and Ankle Strength of the Peroneus Longus and the Peroneus Brevis」Journal of Human Kinetics 92:99-110, 2024(DOI: 10.5114/jhk/176131・靴ではなく腓骨筋のトレーニングの研究。中止後4週間でも維持された側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Shavandi, N., Talebian, S., Aslanpoor, S., Sheikhhoseini, R., Zeinali, S.「The effect of strength training and combination technique on preserving the strength of plantar flexor muscles after a period of detraining」The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 56(9):990-996, 2016(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 25812707)を示す。靴ではなく下腿三頭筋のトレーニングの研究で、中止後に筋力が元に戻った側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
- 出典:Warne, J.P., Gruber, A.H.「Transitioning to Minimal Footwear: a Systematic Review of Methods and Future Clinical Recommendations」Sports Medicine - Open 3(1):33, 2017(DOI: 10.1186/s40798-017-0096-x・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
まとめ
マラソン練習に薄い靴が必要だという根拠は、いまのところ見つかっていません。 目的別に、分かっていることを並べます。
- 速さが目的なら、薄さを選ぶ理由は見当たりません。効いているのは軽さで、いま軽い靴の上位を占めているのはむしろ厚底です(重量の基準サイズが公表されている37足で、軽い順の上位5足はすべて37.5mm以上)
- 足を鍛えることが目的でも、根拠は思っていたより弱いかもしれません。10週間で足の親指の付け根の筋肉が10.6%増えたという報告はありますが、増えたのはその筋肉だけで、同じ研究で18人中8人の骨にMRIで変化が見つかっています(従来の靴で走った19人では1人)。しかもこれらはいま主流のブランドが売っていない、極端に薄い靴での話です。ふくらはぎの筋力は複数の試験で変わらず、140人を12ヶ月追った試験では怪我も減りませんでした
- 足を鍛えるだけなら、走らなくてもできます。ベアフットシューズで歩いただけのグループが、足の強化運動をしたグループと同じくらい筋力を増やしました
- 何足かを交互に履く人は故障が少なかったという報告があります(リスクは約6割)。ただし観察であって因果ではなく、その1足が薄底である必要は誰も示していません
- 靴で変えられるのは2〜4%です。いっぽうランニングエコノミーそのものは、同じくらいの心肺能力の人どうしでも最大30%の開きがあり、その差の多くは練習で埋められると報告されています
そして、「薄底」に決まった定義はありません。専門家42人は線を引かず、市場を見ればソール厚の中心は35〜40mmです。読者が「薄底」と呼んでいるのは、その中で相対的に薄い側のことです。
シューログでできるのは、その「相対的に薄い側」を数値で見つけることと、重さで絞ることです。答えは渡しません。判断の材料を並べます。
最後に3行だけ。
- 薄さそのものが効いたと示した研究は、探した範囲で見つかりませんでした
- 効いているのは軽さで、軽さなら厚底でも手に入ります
- 足を鍛えたいだけなら、走らずに歩くだけでも増えました
数値で絞るところから始めるなら → シューズを探す
最後は履いた感覚で決めてください。
数値の役目は、その手前——候補を間違えないこと——までです。
感覚に、根拠を。
公開日 2026-08-22|更新日 2026-09-06
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