マラソン練習に薄底シューズは必要か?

「厚底ばかりの練習でいいのだろうか」——そう思って薄底シューズを探し始める人は少なくありません。脚が強くなると聞いた、厚底だと体が安定しない、そもそも自分に合っているのか分からない。

この記事は、すでに厚底シューズを持っていて、マラソン練習用にもう1足どうするか迷っている人に向けて書いています。研究で分かっていること、分かっていないこと、そしてシューログのデータで確かめられることを分けて並べます。

結論

マラソン練習に薄底シューズが必要だという根拠は、いまのところ見つかっていません。脚づくりのために選ぶ人もいますが、根拠になっている研究で使われたのは、Vibram FiveFingers(指が5本に分かれた靴)などのミニマリストシューズです。いま買おうとしている靴とは分けて考える必要があります。速さについて研究で示されているのは主に軽さの効果で、薄さそのものが効いたと示した研究は、探した範囲では見つかっていません。いま軽い靴の上位にも、主流の厚さの靴が多く並びます。

動画で見る薄底は必要? 研究で確かめたYouTube で見る(新しいタブで開きます)

「薄底」とは何ミリのことか — 決まりは無い

「ここから先が薄底」という線引きは、決まっていません。

世界11か国の専門家42人が4回の質問票をやりとりして作った基準はあります(2015年)。次の5つの特徴による定義の文に、95%が合意しました。

  • 重さ
  • ソール厚(スタックハイト)
  • かかとと前足部の高低差
  • 靴の曲がりやすさ
  • 支える構造の有無

5つ目は、足の動きを抑えるために靴に組み込まれた仕組みです(硬さの違う素材を重ねたミッドソール・硬いかかとのカップ・土踏まずを持ち上げたインソールなど)。こうした仕組みが無いほど薄底寄りと数えます。

ただし、この42人の基準そのものは、「ここから先が薄底」という数値の境界を、当時の時点では決められないとしています。5つを等しく扱うと「軽いがソールの厚い靴」と「重いがソールの薄い靴」が同じ点数になってしまうこと、そしてどの要素をどれだけ重く見るべきかを言えるだけの研究がまだ無いことが理由として挙げられています。

いっぽうで、別の研究者らは具体的な線を提案しています。重量200g以下・かかとのソール厚20mm以下・高低差7mm以下に、ソールと足を包む上の部分(アッパー)が柔らかいこと、というものです。ただしこちらは専門家の合意ではなく、レビュー論文での提案です。

決まりが無いなら、シューログが扱う靴の実数で見るしかありません。

2026年11月3日現在、シューログが扱う166足(生産終了を含む)のうち、メーカー公表のソール厚を確認できたのは116足です。

シューログが扱う靴の、かかとのソール厚

20mm以下0足20mm以下=提案された条件の一つ(合意ではない)中央値 39mm01020304050mm最薄 27mm(2足)約3mm=初心者を調べた実験の靴(靴底)

靴底の厚さで、ソール厚と測り方が同じとは限りません

1点=1足(メーカー公表値・確認できた116足)。1mmごとに積んでいます

ソール厚が空欄の50足は入れていません。2026年11月3日現在。

確認できた範囲で最も薄いのは27mm——アシックスのライトレーサー6と、アディダスのアディゼロ アディオス 9です。

先ほどの「かかと20mm以下」という提案に当てはまる靴は、1足もありません。

なお、研究ではこのような靴を「ミニマリストシューズ」と呼びます。店頭ではベアフットシューズと呼ばれる靴も含みますが、研究ごとに使った靴は違います。この記事では研究の語のまま書き、指が5本に分かれた靴(Vibram FiveFingers)を使った研究だけ「いわゆるベアフットシューズ」と書きます。

また、かかとと前足部の高低差(ドロップ)は、「薄さ」とは別の軸です。ゼロドロップシューズ(高低差が無い靴)の話は、この記事では扱いません。

だから読者が「薄底」と言うとき、それは厚底が主流になった市場の中で、相対的に薄い側を指しているはずです。この記事もその意味で使います。目安としては、いまの中心が35〜40mm。30mm台の前半なら薄い側、というあたりです。

出典(2本)
  • 出典:Esculier, J.F., Dubois, B., Dionne, C.E., Leblond, J., Roy, J.S.「A consensus definition and rating scale for minimalist shoes」Journal of Foot and Ankle Research 8:42, 2015(DOI: 10.1186/s13047-015-0094-5・11か国の専門家42名による修正デルファイ法。著者自身が「現時点ではミニマリストか否かを二分するカットオフ値は決められない」と明記している・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Coetzee, D.R., Albertus, Y., Tam, N., Tucker, R.「Conceptualizing minimalist footwear: an objective definition」Journal of Sports Sciences 36(8):949-954, 2018(DOI: 10.1080/02640414.2017.1346816・レビュー論文による提案であって専門家合意ではない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る

データで見る時の注意:ソール厚が空欄の足の多くは日本のメーカー公式でソール厚の公表を確認できなかった靴で、一部はシューログがまだ確認していない靴です。→ ランニングシューズの数値の読み方

自分の一足を調べるなら:いま履いている靴のかかとのソール厚が何ミリか、メーカーの製品ページで確かめてみてください。「厚底/薄底」というラベルより、その数字のほうが比較に使えます。

薄いと速くなるのか — 研究で示されているのは主に軽さ

薄底シューズで速くなったという報告はあります。ただし、研究で示されているのは主に「軽さ」の効果で、「薄さ」だけの効果を確かめた研究は見つかっていません。

この節で出てくるランニングエコノミーは、同じ速さで走るのに使うエネルギーの少なさ——いわば「走りのラクさ」のことです。研究では、その速さで走っているときに取り込む酸素の量で測ります。良くなるほど、同じペースを少ないエネルギーで維持できます。

まず、報告は割れています。

研究 対象と期間 結果
ランダム化比較試験 練習を積んだランナー61名・6週間 ランニングエコノミーが有意に改善し、5kmのタイムも少し速くなった
ランダム化比較試験 普段は普通の靴で走る男性32名・8週間 ランニングエコノミーは改善したが、統計的に有意ではなかった
前後比較(対照群なし) 男性15名・4週間慣らし 慣らし後、裸足に近い条件が普通の靴より 6.9% 良かった(有意・慣らし前は差なし)
被験者内比較 男性8名・裸足 裸足で 4.4% 良くなった(有意)
400mトラックでの実走 初心者24名・解析17名 ミニマリストシューズ(論文の語ではミニマルシューズ)で酸素消費量が 2.5% 少なかった(有意)

※ランダム化比較試験=参加者をくじ引きのように分けて比べる方法です。思い込みや偏りが入りにくく、確かめ方としては最も強い形とされています。

5つのうち4つで差が出ています。とくに最後の1本は日本の研究で、女性15名を含む初心者ランナーが実際のトラックを走ったもので、この記事を読んでいる人の条件にいちばん近い研究です。

ではなぜ「薄さのおかげ」と言えないのか

裸足の研究に、その手がかりがあります。ランニングエコノミーが良くなった大きさは、脱いだ靴の重さと関係していた(決定係数 r²=0.80・8人)というものです。重さが効いている可能性を示す結果です(ただし、この研究は薄さと重さを分けて比べてはいません)。

19の研究を集めたレビューでも、そのうち14研究をまとめた解析で靴が軽いほどランニングエコノミーが良いという関係が示され、別の実験では1足あたり100g重くなると3000mのタイムが0.78%落ちると報告されています。同じまとめには、ミニマリストシューズが普通の靴より少し良い(効果は小さい)という結果もあります。ただ、裸足と靴の重さを揃えて比べた実験2本(各12名)では、裸足が有利という結果は出ませんでした(差なし、または靴のほうが3〜4%ラク)。

軽さで選ぶと、薄底シューズばかりが出てくるわけではありません

2026年11月3日現在、重量とソール厚の両方が分かっているのは111足です。ただし重量は、何センチのサイズで量った値かをメーカーが公表している靴と、していない靴があります。基準がそろっていないため厳密な順位ではない、という注意つきで、111足の公表値を小さい順に並べます。上位5足はこうなります。

重量 量ったサイズ ソール厚(かかと)
96g 27.0cm 39mm
97g 27.0cm 39mm
129g 非公表 29mm
129g 27.0cm 39.5mm
135g 27.0cm 38mm

いちばん小さい数字は96g(ソール厚39mm)でした。量ったサイズが「非公表」の行は、他の靴と同じ土俵の数字かは分かりません。量ったサイズが公表されている靴に限ると、軽い順の上位5足のソール厚はすべて34.5mm以上で、5足のうち5足がレース用のカーボンプレート入りシューズです。同じ範囲で30〜36mmにある靴は137〜299gで、多くは200g台の練習用デイリートレーナーです。ただしレース用も入っていて、ミズノの HYPERWARP PURE(34.5mm・137g〔27.0cm基準〕・カーボンプレート入り)もその1つになります。

ただし、これは「厚いほうが軽い」という性質の話ではありません。そもそも主流の靴はほぼ厚底で(35mm未満は111足中9足)、軽さを突き詰めたカーボンプレート入りのレース用シューズも、多くは厚底で作られています。一方で、27〜32mmの薄い側にも200g前後の軽量スピード系(ライトレーサー6・ハイパースピード6など)が少数残っています。

厚さで重さが決まらないことは、同じ厚さの靴どうしを並べると見えます。ここからは比べる条件をそろえるため、靴を絞ります。いま買える靴(生産終了・発売前などを除く)のうち、重さを同じ27.0cmのサイズで量った値と、かかとのソール厚の両方をメーカーが公表しているのは49足です。

その中で、かかとの厚さでいちばん多いのは38mmの8足です。この8足の重さは170g〜295gで、同じかかとの厚さでも125gの差がありました(2026年11月3日現在)。

だから言えるのは、軽さを求めて薄底シューズを探さなければならない理由は、いまの市場には無いということです。軽さがほしければ、厚さではなく重量の数字で探すのが近道です(シューズ一覧は「軽い順」に並べ替えられます)。

出典(9本)
  • 出典:Fuller, J.T., Thewlis, D., Tsiros, M.D., Brown, N.A.T., Buckley, J.D.「Six-week transition to minimalist shoes improves running economy and time-trial performance」Journal of Science and Medicine in Sport 20(12):1117-1122, 2017(DOI: 10.1016/j.jsams.2017.04.013・61名・6週間のRCT。5kmタイムは改善したが、足関節底屈筋力は3つの測定法すべてで変化しなかった・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Lindlein, K., Zech, A., Zoch, A., Braumann, K.M., Hollander, K.「Improving Running Economy by Transitioning to Minimalist Footwear: A Randomised Controlled Trial」Journal of Science and Medicine in Sport 21(12):1298-1303, 2018(DOI: 10.1016/j.jsams.2018.05.012・男性32名・8週間のRCT。ランニングエコノミーの改善は統計学的に有意ではない(p>0.05)。要旨は移行の配分を「週の走行距離の5%ずつ」と書く(本文の方法は下の学位論文を参照)・2026-11-03確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Warne, J.P., Warrington, G.D.「Four-week habituation to simulated barefoot running improves running economy when compared with shod running」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 24(3):563-568, 2014(DOI: 10.1111/sms.12032・男性15名・対照群のない前後比較・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Reeves, K.A., Corbett, J., Barwood, M.J.「Barefoot running improves economy at high intensities and peak treadmill velocity」The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 55(10):1107-1113, 2015(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 24998616)を示す/男性8名・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:山内武, 長谷川裕「ミニマルシューズはランニングエコノミーを高める」ランニング学研究 25(1):66-67, 2014(DOI: 10.57497/running.25.1_66・学会大会一般研究発表抄録(2ページ)。解析対象は17名。シューズの質量が統制されていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Fuller, J.T., Bellenger, C.R., Thewlis, D., Tsiros, M.D., Buckley, J.D.「The Effect of Footwear on Running Performance and Running Economy in Distance Runners」Sports Medicine 45(3):411-422, 2015(DOI: 10.1007/s40279-014-0283-6・19研究のシステマティックレビューと14研究のメタ解析(2014年4月まで)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Hoogkamer, W., Kipp, S., Spiering, B.A., Kram, R.「Altered Running Economy Directly Translates to Altered Distance-Running Performance」Medicine & Science in Sports & Exercise 48(11):2175-2180, 2016(DOI: 10.1249/MSS.0000000000001012・男性18名・3000mタイムトライアル・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Franz, J.R., Wierzbinski, C.M., Kram, R.「Metabolic cost of running barefoot versus shod: is lighter better?」Medicine & Science in Sports & Exercise 44(8):1519-1525, 2012(DOI: 10.1249/MSS.0b013e3182514a88・裸足で走る経験のある男性12名・トレッドミル。重さを揃えた条件では、靴(約150gの軽いクッション靴)のほうが裸足より酸素摂取量が約3〜4%少なかった・2026-10-10確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Divert, C., Mornieux, G., Freychat, P., Baly, L., Mayer, F., Belli, A.「Barefoot-shod running differences: shoe or mass effect?」International Journal of Sports Medicine 29(6):512-518, 2008(DOI: 10.1055/s-2007-989233・鍛えた被験者12名。裸足の代わりに極薄の靴下を使い、重りで靴と重さを揃えて比較。重さの効果はあったが、靴そのものの効果は酸素消費に出なかった(オンライン先行公開は2007年)・2026-10-10確認) ↑本文に戻る

自分の一足で確かめるなら:いま履いている靴の重量を書き出して、候補と何グラム違うか並べてみてください。100gの差がどのくらいの意味を持つかは、上の数字が目安になります。

薄い靴で、負担のかかり方はどう変わるか

薄底シューズに替えると、体にかかる負担の「量」より「場所」が変わる、という報告があります。

負担は膝から足首へ移る

3種類の厚さの靴で走り比べた研究があります。前足部・中足部から接地するランナー11名を分析したもので、結果はこうでした。

  • 薄底シューズでは、足関節の仕事が増える(膝から足首へ移る)
  • 厚い靴では、足関節の正の仕事(足首が押し出す仕事)が減り、膝の仕事が増える(足首から膝へ移る)

前足部・中足部から接地する11名では、厚さで負担の場所が変わった

薄い靴厚い靴足首の仕事が増える膝の仕事が増える
模式図です。3種類の厚さの靴のうち、最も薄い靴と最も厚い靴。

研究者たちはこれを「再配分」と表現しています。どちらが優れているかという話ではなく、どこに負担を置くかが変わる、ということです。

同じ構造の話は接地のしかたでも報告されています。前足部から接地すると膝の関節にかかる圧力は下がりますが、アキレス腱にかかる力は上がります(5.1→6.3 体重分)。日本の研究でも、前足部・中足部から接地したときのアキレス腱の張力は、かかとから接地したときより有意に高かったと報告されています(成人男性8名・裸足での測定)。

薄底シューズに替えた人が「翌日の疲れが違う」と感じるのは、慣れていない場所に負担が移るからだと考えると筋が通ります。ただしこの「疲れ」そのものを測った研究を、当サイトは探していません。ここは負担の移り方から推測しているだけで、裏づけはありません。

足は強くなる。ただし「どこが」は限定的

※ここからは言葉を使い分けます。足首から下が「足」、ふくらはぎや太ももを含む下半身が「脚」です。

10週間の試験で大きくなったのは、親指の付け根の筋肉だけ

足の内側から見た図親指の付け根かかと母趾外転筋:断面積 +10.6%(かかとから親指の付け根へ伸びる筋肉)ほかに測った筋肉:有意な変化なし
模式図です(筋肉の形と大きさは正確ではありません)。Vibram FiveFingers に移った18人と、従来の靴の19人の比較。

10週間かけていわゆるベアフットシューズ(Vibram FiveFingers)へ移行させた研究では、足の親指の付け根の筋肉(母趾外転筋)の断面積が10.6%増えました(対照群との比較で p=0.01)。ただしそれ以外の筋肉には有意な変化がありませんでした。

ランナーのあいだでよく言われる「薄底シューズを履くと足裏が鍛えられる」という話は、この足の中にある筋肉(足内在筋)の変化を指しているのだと読めます。そう読むなら、Vibram FiveFingers の試験には実測があることになります。

6ヶ月の移行プログラムを行った別の研究では、下腿と足部の筋肉の容積が増え、増加は前足部の筋肉が中心でした。

ここで2つ、押さえておくことがあります。

1つは、研究で使われた靴と、いま買おうとしている靴は分けて考える必要がある、ということです。10週間の研究が使ったのは Vibram FiveFingers——足の指が5本に分かれた、いわゆるベアフットシューズです。6ヶ月の研究のほうは、論文の要約に靴の名前が書かれていないので、どんな靴だったのかは分かりません。こちらも「ミニマリストシューズ」への移行として行われたものです。第1節で見たとおり、シューログが扱う100足以上の中で最も薄いものでも27mm(アシックスのライトレーサー6と、アディダスのアディゼロ アディオス 9)でした。その厚さや30mm台前半の靴に替えて同じことが起きるかを、調べた研究は見つかっていません。

もう1つは、ふくらはぎの最大筋力は増えなかったということです。第2節の表の61名・6週間の試験では、足首を伸ばす筋力が3つの測り方すべてで変わりませんでした。12週間の別の試験(靴に走り方の指導と足の運動を組み合わせたもの)でも、最大筋力も筋肉の厚さも変わっていません(力を出す速さと、補正した筋線維の束の長さは増えました)。

この12週間の試験は、薄い靴・走り方の指導・足の運動を一緒に行っています。力を出す速さなどが増えたことについても、そのどれが効いたのかは分けられません。対象も男性だけでした。

「ベアフットシューズで足が強くなる」という言い方をよく見かけますが、研究で確かめられているのは、Vibram FiveFingers などのミニマリストシューズで、足の一部の筋肉が大きくなったことと、歩いたり日常で履いたりして足の筋力が増えたこと(このあと紹介します)までです。ふくらはぎの最大筋力は、上の2つの試験では増えていません。

同じ研究で、骨に変化が出た人もいます

先ほどの母趾外転筋が増えた10週間の研究では、Vibram FiveFingers に移った18人のうち8人の足の骨に、MRIでしか見えない変化が現れました。従来の靴で走った19人では1人です。

骨に負担がかかると、骨の内部に水分がたまることがあります(骨髄浮腫)。外からは見えず、痛みが出るとは限りません。

この「変化」の重さの段階は、論文の要約からは分かりません。 同じ研究グループが別の研究で使っている0〜4の重症度の目盛りでは、疲労骨折に相当するのはいちばん重い「4」だけです。画像に写った変化であって、症状が出たかどうかとは別の話です。

そして重要なのは、変化が出たのが誰だったかという点にあります。この研究では、浮腫が見つかった人(主に女性)は、測定したすべての筋肉のサイズが元々小さかったと報告されています。ただしこれは事後の観察で、人数も少ないものです。

つまり同じ靴に移った人たちで、筋肉は平均で増えた一方、骨に画像上の変化が出た人もいた、ということです。

そして、怪我そのものを追いかけた研究もあります。かかとから着地するランナー140人を12ヶ月追ったランダム化比較試験で、参加者は3つのグループに分けられました。

  • ミニマリストシューズを渡されたグループ
  • 走り方を練習したグループ(6回の指導で、柔らかく着地する・かかと以外で接地する・1分あたりの歩数(ピッチ)を7.5%増やすことを練習)
  • ストレッチのプログラムを行った対照のグループ

怪我の発生率は、3つのグループの間で統計的に明確な差が出ませんでした(3通りの解析すべて)。研究者たちは「一般に信じられていることに反して、ミニマリストシューズも柔らかい走り方も、怪我の全体的な発生率を下げなかった」と書いています。

ただし、怪我の場所には違いが出ています。3通りのうち2通りの解析で、対照のグループでは股関節の怪我が多く、走り方を練習したグループでは足の怪我が多かったと報告されています(グループの間で比べた結果です)。ミニマリストシューズのグループの怪我の場所については、論文の要約には書かれていません。

怪我の全体が減るという結果は出ませんでした。 ただ、差が出なかったことは「増えない」の証明ではありません。移行で増えていたとするまとめた解析もあり、研究は割れています(慣らしの節)。

走らずに鍛える方法があります

8週間の研究で、ミニマリストシューズで「歩く」だけのグループが、足部の強化エクササイズを行ったグループと同等に、筋肉のサイズと筋力を増やしました(57名・3群比較)。走行距離は全グループが維持したうえでの結果です。

足を鍛えるだけなら、走らなくてもできるということです。ただしこの研究は筋肉しか測っておらず、歩いたときに骨がどうなるかまでは分かりません。

6ヶ月より先も増えるかは、確かめられていません

6ヶ月間ミニマリストシューズで過ごした研究では、足の筋力が57.4%増えました。ただし同じ研究で、平均2.5年ミニマリストシューズを履いてきた人たちと、6ヶ月のプログラムを終えたばかりの人たちで、筋力が同じくらいでした(同じ人を追い続けたのではなく、別の人たちとの比べっこです)。研究者たちは「6ヶ月を超えてもさらに増えていく」という自分たちの見込みを取り下げると書いています。

ただしこの研究の参加者は、その靴で走らないよう指示されていました。日常生活で履いた研究であって、走った研究ではありません。

出典(10本)
  • 出典:Miyazaki, T., Aimi, T., Nakamura, Y.「Redistribution of knee and ankle joint work with different midsole thicknesses in non-rearfoot strikers during running: a cross-sectional study」Acta of Bioengineering and Biomechanics 25(1):79-90, 2023(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 38314579)を示す/前足部・中足部接地のランナー11名・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Kulmala, J.P., Avela, J., Pasanen, K., Parkkari, J.「Forefoot Strikers Exhibit Lower Running-Induced Knee Loading than Rearfoot Strikers」Medicine & Science in Sports & Exercise 45(12):2306-2313, 2013(DOI: 10.1249/MSS.0b013e31829efcf7・女性38名を習慣的な接地パターンで分けた横断的な比較。接地を変えたらどうなるかは示しておらず、傷害そのものも測っていない(負荷の推定値)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:西口ほのか, 高林知也, 菊元孝則, 久保雅義「ランニング時の足部接地パターンの違いがアキレス腱張力に与える影響」ランニング学研究 35(1):43, 2023(DOI: 10.57497/running.35.1_43・学会大会一般研究発表抄録。成人男性8名・裸足での測定・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Johnson, A.W., Myrer, J.W., Mitchell, U.H., Hunter, I., Ridge, S.T.「The Effects of a Transition to Minimalist Shoe Running on Intrinsic Foot Muscle Size」International Journal of Sports Medicine 37(2):154-158, 2016(DOI: 10.1055/s-0035-1559685・オンライン先行公開2015-10-28・誌面は2016年2月号。10週間・37名(ベアフットシューズ群18名/対照19名)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Chen, T.L.W., Sze, L.K., Davis, I.S., Cheung, R.T.「Effects of training in minimalist shoes on the intrinsic and extrinsic foot muscle volume」Clinical Biomechanics 36:8-13, 2016(DOI: 10.1016/j.clinbiomech.2016.05.010・6ヶ月の移行プログラム(介入20名・対照18名)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Zhang, C., Deng, L., Zhang, X., Wu, K., Zhan, J., Fu, W., Jin, J.「Effects of 12-week gait retraining on plantar flexion torque, architecture, and behavior of the medial gastrocnemius in vivo」Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 12:1352334, 2024(DOI: 10.3389/fbioe.2024.1352334・12週間の薄底+前足部接地への移行。最大筋力も筋の厚さも変化しなかった。全文の方法によると、走り方の指導に加えて足の機能と筋力の運動(1回20分)も12週間行っている。対象は男性のみ・2026-11-03確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Ridge, S.T., Johnson, A.W., Mitchell, U.H., Hunter, I., Robinson, E., Rich, B.S.E., Brown, S.D.「Foot Bone Marrow Edema after a 10-wk Transition to Minimalist Running Shoes」Medicine & Science in Sports & Exercise 45(7):1363-1368, 2013(DOI: 10.1249/MSS.0b013e3182874769・骨髄浮腫の0〜4の重症度スケール(4のみが疲労骨折に相当)の出典。Johnson 2016とは別論文で、本文では両者の数値を混ぜていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Abran, G., Schwartz, C., Dardenne, N., Delvaux, F., Croisier, J.L.「Minimalist Footwear and Softer Running Technique Alter Injury Location but Not Incidence in Recreational Endurance Runners」The American Journal of Sports Medicine 54(1):109-117, 2026(DOI: 10.1177/03635465251392242・140名・12ヶ月のRCT(ClinicalTrials.gov NCT05499871)。3群(ミニマリストシューズ47名・走り方の再訓練47名・ストレッチの対照46名)・2026-11-03確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Ridge, S.T., Olsen, M.T., Bruening, D.A., Jurgensmeier, K., Griffin, D., Davis, I.S., Johnson, A.W.「Walking in Minimalist Shoes Is Effective for Strengthening Foot Muscles」Medicine & Science in Sports & Exercise 51(1):104-113, 2019(DOI: 10.1249/MSS.0000000000001751・8週間・57名の3群比較。筋のサイズと筋力だけを測っており、骨は測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Curtis, R., Willems, C., Paoletti, P., D'Août, K.「Daily activity in minimal footwear increases foot strength」Scientific Reports 11:18648, 2021(DOI: 10.1038/s41598-021-98070-0・参加者はこの靴で走らないよう指示されており、日常生活での着用を調べた研究(走行の研究ではない)・2026-08-22確認) ↑本文に戻る

自分の一足で試すなら:もし薄い側の靴を足すなら、いきなり走らず、まず歩く時間から始めてメモを取ってみてください。何週目に何をしたかを残しておくと、違和感が出たときに戻る場所が分かります。

使い分けに意味はあるか — ある。ただし薄底かどうかは別の話

何足かを交互に履いている人のほうが、故障が少なかったという報告があります。ただし「その1足が薄底である必要」を示した研究は、探した範囲では見つかっていません。

市民ランナー264人を追跡した調査があります。この人たちは走った内容と故障を専用のサイトに毎回記録し、平均15.5週間追跡されました。期間中に3分の1にあたる87人が、少なくとも1回の故障を経験しています。

その分析で、複数のシューズを並行して使っていた人の故障リスクは、そうでない人の約6割にとどまりました(ハザード比0.614、95%信頼区間0.389〜0.969)。他のスポーツもしている人のリスクも低く出ています。

ただし、ここから先は言えないという線が3つあります。

① これは観察であって、因果ではありません。 靴を何足も持てる人は、経済的な余裕や意識の高さが違う可能性があります。実際この研究でも、複数使用者は平均で4歳年上(44.2歳と40.5歳)で、この1年の練習も規則的で、走る量も多いという差がありました。そして年齢は分析の調整項目に入っていません。

② この研究の「複数」は、思っているより緩い定義です。 記録上「別の靴」と数えられるのは、ブランド・モデル・バージョンのいずれかが違えばよいという基準でした。つまり同じモデルの新旧を交互に履いていた人も「複数シューズ使用者」に入っています。

③ 厚底と薄底の組み合わせは、検証されていません。 これはこちらの推測ではなく、研究者たち自身が論文に書いていることです——リスクの低下が「ミッドソールの密度・構造・形状といった靴の特性の交代に帰属できるかは、これらの結果からは判定できない」。スタックやドロップやクッションは、そもそも測られていません。

加えて、この研究は必要とされた人数(360人)に届いておらず、信頼区間の上限0.969は1にかなり近い位置にあります。「使い分ければ故障が減る」と読むには弱い、という程度に受け取るのが妥当です。

なお資金はルクセンブルクの国立研究基金で、シューズメーカーではありません。

つまり言えるのはここまでです。1足を履き潰すのではなく何足かを回すこと自体には、弱いながら裏づけがある。ただしその1足を薄底にすべきかどうかを確かめた研究は、探した範囲では見つかっていない。

出典(1本)
  • 出典:Malisoux, L., Ramesh, J., Mann, R., Seil, R., Urhausen, A., Theisen, D.「Can parallel use of different running shoes decrease running-related injury risk?」Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 25(1):110-115, 2015(DOI: 10.1111/sms.12154・前向きコホート研究(264名・平均15.5週)。靴の使い方は割り付けではなく参加者の自己選択・2026-08-22確認) ↑本文に戻る

データで見る時の注意:ローテーションの考え方は、シューズの寿命の記事でも扱っています。→ シューズの替え時

自分の持ち靴で数えるなら:いま練習で使っている靴が何足あるか、そして何が違うか(重さ・ソール厚・用途)を書き出してみてください。「薄いのを足す」より先に、いま何と何を回しているかが見えます。

靴で変わったのは、研究の平均で2〜4% — 練習で変わりうる要因はほかにある

長い距離を速く走れるかどうかは主に3つの要素で決まる、と総説がまとめています。そしてその3つを論じた総説に、「靴」という語は一度も出てきません。

持久系の走りを決めるのは、①最大酸素摂取量(VO2max=どれだけ酸素を取り込めるか) ②乳酸性作業閾値(LT=きつくなり始めるペースの高さ) ③ランニングエコノミー(走りのラクさ)。この3つだとされています。

この総説で③にぶら下がる要素として挙げられているのは、遅筋線維の割合と、体格や腱の弾性の2つだけです。用具の項目はありません。

これは「靴は関係ない」という意味ではありません。2008年に書かれた、エリート選手の生理学を論じた総説であり、そもそも用具を扱っていないというだけです。

比べる物差しが違う数字ですが、並べてみます。

別の総説によると、最大酸素摂取量が同じくらいのランナー同士でも、ランニングエコノミーは最大30%も違うと報告されています。そしてその違いは走り方・体つき・筋肉の使い方などの積み重ねで決まり、その多くはトレーニングで変えられるとされています。

いっぽう靴で変わる幅はどうか。厚底カーボンシューズの研究では、4.16%・4.01%(男性18名・靴の重さを揃えた比較・比較相手はナイキ ズーム ストリーク 6 とアディダス アディゼロ アディオス ブースト 2)、2.6〜4.2%(男女24名・比較相手は陸上スパイク〔ナイキ ズーム マトゥンボ 3〕とアディゼロ アディオス 3)といった数字でした。

参考:ヴェイパーフライ「4%」の名前の由来

ちなみに、厚底ブームの火付け役になった「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」(2017年7月発売)の「4%」は、この数字のことです。ナイキは「ナイキ ストリーク 6との比較試験に基づき、ランニング効率を平均4%高めることを目標とし、「4%」がプロダクト名に用いられています」と説明しています。上の4.16%を報告した研究で使われたのも、この靴の試作品でした。

ただし、「タイムが4%縮む」という意味ではありません。同じ速さで走るときに使うエネルギーの話で、比べた相手はほかのモデル(ナイキ自身のものを含む)です。

人どうしの差(最大30%)と、靴を替えたときの平均の差(2〜4%)は、直接は比べられません。ただ、人どうしの差を決める要因の多くは、練習で変わりうるとされています。しかも靴側の数字には条件がつきます。

  • 4%の研究はナイキが資金を出し、著者3人がナイキの社員またはコンサルタントです
  • 個人差が大きく、改善しなかった人が実在します。男女24名の研究では、わずかに悪くなった人(+0.50%)がいました。48本の研究をまとめた解析(メタアナリシス)は考察で、個々の研究に「9.6%の悪化から9.7%の改善まで」の幅があったと紹介しています
  • そのメタアナリシスをまとめた研究者たち自身が、もとになった研究の確かさは低いと評価しています。理由の1つは、48本中28本が靴の重さを揃えていなかったことです

3つの要素に当てはめると、こうなります。

3つの要素 靴による変化の報告
① 最大酸素摂取量 探した範囲では見当たらない
② 乳酸性作業閾値 探した範囲では見当たらない
③ ランニングエコノミー 平均で2〜4%ほど(厚底カーボンシューズの研究)
出典(6本)

自分の練習で見直すなら:靴を替える前に、いまの週の走行時間と、きついペースで走っている時間の配分をメモしてみてください。練習で変わりうる要因は、そちら側にあります。

結局どれを選べばいいか(初心者はどうするか)

「薄底が必要だ」という根拠は、いまのところ見つかっていません。それでももう1足足すなら、薄さではなく重さで選ぶほうが、研究の裏づけがあります。

走り始めて間もない人が、急いで移る理由は見当たりません

初心者11名と経験者11名を同じ条件で走らせた実験があります。そこでは、シューズや接地のしかたによらず、膝のおさらの関節にかかる力とアキレス腱への負担の総量(力積)は、経験者より初心者のほうが有意に大きいという結果が出ています(男性・かかと接地の各11人・その場の比較。初心者は平均20.5歳・経験者は33.7歳)。

さらに同じ実験で、かかとから接地する場合、着地の衝撃の立ち上がりは従来型シューズのほうがミニマリストシューズより有意にゆるやかでした。この実験のミニマリストシューズは、ミッドソールが無く靴底3mmほどの靴です。第3節の指の分かれた靴とは別の靴です。

つまり、この実験では、初心者の膝のおさらの関節にかかる力と、アキレス腱の力積が大きかったということです。怪我を追った研究ではありません。ただしこの実験が比べたのはミニマリストシューズと従来型の靴で、シューログが扱う中で薄い側(30mm台前半まで)の靴に替えたときにも負担が増えるかは分かりません。第3節の「骨に変化が出たのは、元々筋肉が小さかった人」という所見とあわせて、シューログは、急いで移る理由は見当たらないと考えます。

「初心者は履くな」という意味ではありません。

選ぶなら、薄さより重さで

第2節で見たとおり、薄底シューズの利点として研究で示されているのは、主に軽さでした。そして市場を見ると、軽い靴の上位にも、主流の厚さの靴が多く並んでいました。

シューログでソール厚を確認できているのは、扱っている166足のうち116足です(2026年11月3日現在)。残りは空欄なので、「薄い順ランキング」は作りません。一部が欠けた表を順位のように見せると、欠けていることが見えなくなるからです。

いっぽう重量は157足で確認できています。軽さで絞るなら、こちらのほうが使えます。

重さなどの数値で候補を絞ったら、足に合うかどうかは、試し履きや試走会で確かめてください。

薄底シューズを選ぶなら、慣らしに時間をかける

履き替えていく期間について、研究で使われた数字を挙げておきます。

第2節の表の32名の試験では、1週間に走る時間のうち、新しい靴で走る時間を5%分ずつ増やしていくという配分が使われました。走る量の全体は増やさず、普段の練習の一部を新しい靴に置き換えていくやり方です(この配分は、著者の学位論文に収められた本文の方法によります)。

研究で使われた配分の一例(男性32名・8週間の試験)

100%0%週に走る時間1週目は新しい靴で歩くだけ(10分×週3日)1週2週5%3週10%4週15%5週20%6週25%7週30%8週35%

新しい靴で走る時間それ以外

安全を確かめた計画ではありません

移行のリスクをまとめた解析(7研究・計313人)では、ミニマリストシューズへの移行で怪我のリスクが上がっていました(著者は上がり方を「中程度(moderate)」と書いています)。多かったのは、足の甲の骨の浮腫・アキレス腱・ふくらはぎの痛みです。著者は、指導つきで12週間以上かける再訓練が段階的な適応を助ける可能性があると書いています。

どちらも「この期間なら安全」と検証された数字ではありません。実際に使われた配分と研究者たちの推奨です。第3節で見たとおり、10週間かけて移行した研究でも18人中8人に骨の変化が出ています。

ゼロドロップシューズ(高低差が無い靴)のメーカーの案内には、10日ほどで移行できると書かれたものもあります。高低差の話であって薄さそのものではなく、研究で使われた・勧められた期間(8週間、12週間以上)とは開きがあります。

出典(4本)
  • 出典:Li, Y., Nie, Y., Zhang, X., Gu, Y.「Effects of footwear and foot strike patterns on patellofemoral joint and Achilles tendon loading in novice runners and experienced runners」Frontiers in Sports and Active Living 7:1610514, 2025(DOI: 10.3389/fspor.2025.1610514・初心者11名・経験者11名(いずれも男性・リアフット接地者)。急性のクロスオーバーで傷害は追跡していない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Lindlein, K.B.「Auswirkungen einer kontinuierlichen Steigerung des Trainingsanteils in minimalistischen Laufschuhen auf die Laufökonomie: Eine randomisiert kontrollierte Studie」博士論文(ハンブルク大学 医学部), 2018(上の Lindlein ほか(2018)の論文を収めた学位論文。方法の節に、1週目は新しい靴で10分の歩行を別々の3日、2週目から週の走る時間のうち新しい靴の割合を毎週5%ずつ増やし最終週35%、普段の練習に上乗せせず一部を置き換える、とある・2026-11-03確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Río, E.S., Galán-Arriero, I., Palomo-Fernández, I., Marcos-Tejedor, F., Martín-Casado, L.「Injury risk associated with the transition to minimalist footwear in runners: A systematic review and meta-analysis」Gait & Posture 131:110614, 2026(DOI: 10.1016/j.gaitpost.2026.110614・2026年8月10日オンライン先行公開(Crossrefの誌面号は2027年1月付)。効果量は何の指標か抄録から特定できないため本文では引いていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:ALTRA(アルトラ)日本公式「アルトラで自然な走りを身につける」ALTRA Japan 公式サイト(altrafootwear.jp), 2021(売り手側の案内(ページの日付表示は2021年10月17日)。移行の目安として「これを10日間ほど続ければ問題なく、ゼロドロップのシューズで長距離を走れるようになります」と記載。研究側で使われた・勧められた期間(8週間・12週間以上)と数倍の開きがある・2026-10-10確認) ↑本文に戻る

自分の予定に置き換えるなら:買うと決めたら、最初の1か月にどれだけ履くかを先に決めて書いておいてください。

運営者の場合(1人の記録で、研究で確かめたやり方ではありません):薄底に限らず、私は新しいシューズを週に1回から使い始め、軽いジョグから慣らしています。ただ、レース用に買ったカーボンプレートの靴は、慣らすためだけの日を作らず、レースに向けた練習の中で履いて慣らしました(カーボンプレートの記事の運営者の場合)。

まだ分かっていないこと

読者からよく出る疑問のうち、今回確かめた研究では答えが出なかったものが4つあります。 答えが無いことを知っておくのも、判断の材料になります。

ワラーチや薄いサンダルで走ること

ワラーチ(ソールに紐を通しただけの、サンダル型の履物)や、いわゆる台湾サンダルで走る人がいます。それで走ったときに体に何が起きるかを調べた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。 ただし有料の医学文献データベースや履物専門誌の目次までは当たっていないので、「存在しない」とは言えません。

探した方法

2つの論文データベースと日本語の文献データベースで7通りの検索語を試しましたが、出てきたのはすべて別分野の研究でした。

最も近い研究が1件あります。メキシコのタラウマラ族35人と、市販の薄いサンダルを履いた米国人30人を比べたものです。結果は直感に反しています。どちらのグループも、サンダルを履いたときのほうが裸足のときより、着地の衝撃のピークが大きくなりました。 研究者たちは「人は裸足で歩くときのほうが、薄い履物で歩くときよりもそっと着地する」と結論しています。

ただしこれは歩いたときの研究で、走ったときの話ではありません。怪我が起きたかどうかも測っていません。

なお「台湾サンダル」については、誤解があるようです。日本語圏でこう呼ばれているサンダルの代表格は台湾の母子鱷魚(B&M)というブランドですが、同社の公式サイトはこの製品を「薄い」「裸足に近い」とは謳っていません。掲げているのは「エアクッション・サポート技術」「アーチサポート」「衝撃吸収」で、カーボンプレート入りのシューズも販売しています(2026年8月時点)。

厚底シューズが自分に合わない理由

「厚底だと体が安定しない」という声はよく聞きます。これについては、部分的に測った研究があります。

ソール厚が50mm・35mm・27mmの3足で走り比べた実験では、こうなりました。

測ったもの 結果
股関節の安定性の指標 50mmは27mmより低い
体の重心の上下動 ソールが厚いほど大きい
足首が内側に倒れている時間 差が出たのは50mmと35mm、35mmと27mmの間。50mmと27mmの間は差なし。いちばん短いのは真ん中の35mm

ただし「厚いほど不安定」という単純な関係ではありません(足首の行)。

さらにこの研究は、厚い2足にだけカーボンロッドが入っていて厚さ以外も違い、アディダス社から資金と物品の提供を受けており、参加者は男性17名のみ、測定はトレッドミル上の2つの速度だけです。人によるばらつきも極端に大きく、怪我も関節への負担も測っていません。

つまり、「合わないと感じる人がいる」ことの説明としては足りていません。なぜ人によって合わないのかは、まだ分かっていないと考えてください。

「厚底ばかり履くと脚が弱くなる」のか

これを直接調べた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。

近いものとして、厚いクッションの靴で走ったときにお尻の横の筋肉とすねの外側の筋肉の活動が、むしろ増えたという報告があります。「厚底を履いていると脚が楽をする」という前提は、少なくとも実験室で測った範囲では確かめられていません。

いつ薄底を「卒業」すればいいか

「1年履いて脚がついた気がする。もう薄底じゃなくてもいいのでは」という疑問です。これも3つに分けると、答えが分かれます。

  • やめたら元に戻るのか:靴でこれを調べた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。足の運動をやめたときの研究はありますが、維持されたという報告と元に戻ったという報告があり、結論が割れています
  • 増え続けるのか:第3節で見たとおり、6ヶ月より先も増え続けるかは確かめられていません(別の人たちとの比較)
  • いつ「移行完了」なのか:2017年のシステマティックレビューは、当時の文献では移行が終わったかの判定は難しく、明確な期間は立てられないとしました。今回確かめた範囲でも、答えは見つかっていません
出典(8本)
  • 出典:Wallace, I.J., Koch, E., Holowka, N.B., Lieberman, D.E.「Heel impact forces during barefoot versus minimally shod walking among Tarahumara subsistence farmers and urban Americans」Royal Society Open Science 5(3):180044, 2018(DOI: 10.1098/rsos.180044・歩行の研究であって走行ではない。傷害は測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:母子鱷魚(B&M・龍峰開發有限公司)「母子鱷魚 |氣墊拖鞋・跑步拖鞋・輕量舒適・台灣永續品牌」母子鱷魚 公式サイト(2bm.com.tw), 2026(台湾サンダルの代表的ブランドの公式サイト。2026-08-22時点で「足弓支撐(アーチサポート)」「避震(衝撃吸収)」「碳板鞋(カーボンプレート靴)」をカテゴリとして掲げている・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Kettner, C., Stetter, B., Stein, T.「The effects of running shoe stack height on running style and stability during level running at different running speeds」Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 13:1526752, 2025(DOI: 10.3389/fbioe.2025.1526752・男性17名・トレッドミル。資金欄に Adidas AG からの資金・物品提供が明記されている(利益相反欄の記述とは食い違う)。傷害も関節負荷も測っていない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Becker, J., Borgia, B.「Kinematics and muscle activity when running in partial minimalist, traditional, and maximalist shoes」Journal of Electromyography and Kinesiology 50:102379, 2020(DOI: 10.1016/j.jelekin.2019.102379・実験室での急性比較。長期に脚が弱くなるかを調べた研究ではない・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Tourillon, R., Fourchet, F., Edouard, P., Morin, J.B.「Effects of a forefoot strengthening protocol on explosive tasks performance and propulsion kinetics in athletes: a single-blind randomized controlled trial」PLOS One 20(6):e0313979, 2025(DOI: 10.1371/journal.pone.0313979・靴ではなく前足部の筋力トレーニングの研究。中止後4週間でも効果が維持された側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Arima, S., Maeda, N., Oda, S., Tamura, Y., Komiya, M., Tashiro, T., Urabe, Y.「Selective Strength Training Changes the Morphology and Ankle Strength of the Peroneus Longus and the Peroneus Brevis」Journal of Human Kinetics 92:99-110, 2024(DOI: 10.5114/jhk/176131・靴ではなく腓骨筋のトレーニングの研究。中止後4週間でも維持された側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Shavandi, N., Talebian, S., Aslanpoor, S., Sheikhhoseini, R., Zeinali, S.「The effect of strength training and combination technique on preserving the strength of plantar flexor muscles after a period of detraining」The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 56(9):990-996, 2016(DOIが登録されていないためPubMed(PMID 25812707)を示す。靴ではなく下腿三頭筋のトレーニングの研究で、中止後に筋力が元に戻った側の報告・2026-08-22確認) ↑本文に戻る
  • 出典:Warne, J.P., Gruber, A.H.「Transitioning to Minimal Footwear: a Systematic Review of Methods and Future Clinical Recommendations」Sports Medicine - Open 3(1):33, 2017(DOI: 10.1186/s40798-017-0096-x・2026-08-22確認) ↑本文に戻る

まとめ

マラソン練習に薄底シューズが必要だという根拠は、いまのところ見つかっていません。 目的別に、分かっていることを並べます。

  • 速さ:薄さを選ぶ理由は見当たりません。研究で示されているのは主に軽さの効果で、いま軽い靴の上位には、主流の厚さの靴が多く並びます(重量の基準サイズが公表されている79足で、軽い順の上位5足のソール厚はすべて34.5mm以上)
  • 足を鍛える:根拠は思っていたより弱いかもしれません。10週間で足の親指の付け根の筋肉が10.6%増えたという報告はありますが、他に測った足の筋肉には有意な変化がなく、同じ研究で18人中8人の骨にMRIで変化が見つかっています(従来の靴で走った19人では1人)。しかもこれらは、Vibram FiveFingers などのミニマリストシューズでの話です。ふくらはぎの最大筋力は複数の試験で増えず、怪我は、減るという結果が出なかった試験と、移行で増えたとする解析があります
  • 故障(何足かを回す):何足かを交互に履く人は故障が少なかったという報告があります(リスクは約6割)。ただし観察であって因果ではなく、その1足が薄底である必要を示した研究は、探した範囲では見つかっていません
  • 靴による変化:厚底カーボンシューズの研究で、ランニングエコノミーが良くなったのは平均で2〜4%ほどでした(人によって幅があり、わずかに悪くなった人もいます)。いっぽうランニングエコノミーそのものは、同じくらいの心肺能力の人どうしでも最大30%の開きがあり、その差を決める要因の多くは練習で変わりうるとされています(人どうしの差と靴の差は、直接は比べられません)

シューログでできるのは、厚底が主流の中で相対的に薄い側を数値で見つけることと、重さで絞ることです。答えは渡しません。判断の材料を並べます。


最後に3行だけ。

  • 薄さそのものが効いたと示した研究は、探した範囲で見つかりませんでした
  • 研究で示されているのは主に軽さの効果で、軽さなら厚底でも手に入ります
  • 足を鍛えたいだけなら、走らずに歩くだけでも増えました

数値で絞るところから始めるなら → シューズを探す

最後は履いた感覚で決めてください。
数値の役目は、その手前——候補を絞って比べること——までです。

感覚に、根拠を。

公開日 2026-08-22|更新日 2026-11-03

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